第19話出会いは魔術師 (15)

ミホ③


 「マレットさん。さっき、海の上で魔法を撃つ前に、『4クワトロ7シエテ』と、唱えましたよね。あれは何だったんですか?」

「あ~、あれは……。実際やってみたほうがいいかな。」

そう言ってマレットさんは、右手を出して唱えた。

8オチョ9ノエべ

何かが起きた気はしたが、何が起きたかは分からない。

「ミーホ!我に向かってその長い、えっと~。」

「ん?箸のことですか。」

「そうそう。そいつを我に投げてください。」

「わかりました。」

怪我しても知りませんよ。

私はマレットさんに向かって、思いきり箸を投げた。

「とりゃ!」

「コン!」

投げた箸が何かに当たった音がした。え、なに?これってもしかして。

「バリア?!」

私は言った。

「うん。我らは『シルード』って呼ぶ。ミーホは知っているんだ。」

間違いない。アニメでよく見るやつだ。

私は近寄って叩いてみた。

コン、コン。

わっ!触れる。

火の玉の魔法を見た時は、夢だ、と思ったけれど。バリアを見て確信した。本当に私の目の前には、魔術師の人がいる!

「さっきの呪文は?」

「あれは、レベルに応じた『シールド魔法』だよ。

例えば、55の魔法を撃たれた時、自分の身を守るためには、最低でも『5、5』と唱えないといけないんだ。もっともこれは我のやり方だがな。だから、海の上で撃ったのは『47』だからシールドも『4、7』と唱えたんだ。それで爆風から我らを守ったんだ。」

へぇー。マレットさんの呪文は基本、数字の組み合わせで出来ているから結構細かそうに見えるけど、意外と単純なんだ。

「そう言えば、雷や風の魔法はないんですか?」

雷や風、毒の魔法って、アニメの中では結構強いことで有名だったはず。

「えーっと。雷魔法は、光魔法の上位物で、上級魔法以上は雷魔法だよ。風は…あるけど、我は苦手だから使えない。」

なるほど。あるにはあるんだ。

「じゃー、無詠唱で、できますか?」

「できなくもないけど……。威力が落ちる。」

そうなんだ。

「では、日本語で呪文唱えることはできますか?」

「なるほど。違う言語でね。」

そう言って、マレットさんは再び手を前に出して唱えた。

「100」

日本語だった。

呪文が発動したのか、マレットさんの周りが光りだした。

「意識すれば唱えられる。しかし……威力は結構落ちるな。やっぱり、いつもの呪文の方がいい。」

その後も夜遅くまで、私たちは魔法について話した。

だいぶ夜も更けてきたので、私たちは各自、寝床についた。マレットさんは、とりあえず、リビングで寝ることになった。



 それにしても今日は、朝から色々なことがあったな。

 人を探し、チャラ男たちにからまれ、青年に助けられ、お茶して家に誘い、ご飯を食べ、あわや殺されそうになり、なんだかんだで一緒に過ごすことになり、目の前で魔法を見て…。

 ありすぎる!誰かに話したら大ぼら吹きだと勘違いされる。

でも、これは現実だ。

運命の人にきっと会えたんだ!

昨日までの苦しかった日々は、この日のためにあったんだ。

彼ならきっと…私の苦しみを取り除いてくれるはず。

きっと、きっと………。


翌日。

とある大きな施設で、マレットたちが魔法の話をしている頃……。


藤谷大佐①


「大佐、大佐!大変でございます。太平洋沖、ハワイ島より南90㎞地点の海上にて、魔法を感知しました!」

軍服を着た青年が、椅子に座る中年の男に向かって興奮気味に言った。

「あの魔女ではないんだな。」

「は。はい。」

「そうか…。」

中年の男は青年を下がらせ、軍の専用電話を手に取り、電話をかけた。

「そちらは相塚殿のご自宅でありますな。藤谷大佐です。急ぎ陛下に伝えなければいけないことが。内容は…。」


マレットたちはまだ知らない。これから起こることも。この国のことも…。

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