第16話出会いは魔術師 (12)

マレット③


「あの~、ここら辺に寝れる場所ってありますか?」

 とりあえず寝れる場所を探して、そこからいろいろと始めないと。

そう考えていると、ミホがすごいことを言い出した。

「よかったら私の家に泊まりませんか?」

え!

「もし、よかったらです。」

「いや~、流石にそれは迷惑をかけますよ。」

俺が遠慮すると、

「いえ!そんなことはないです。ぜひ、いや絶対泊まってください!」

再び、すごくグイグイくる。

「私が外で寝たっていいです。なのでマレットさんは、私の家で寝てください。」

「え?」

「料理も作ります。」

うっ、うまそう…じゃなくて。

「なんなら食事、洗濯、添い寝、何でもしますよ。」

『添い寝』!?って、明らかに暴走しているだろ、この娘。誰か止めてあげてくれ。

ミホが俺に近づいてきて言った。

「何だったら、夜の。。」

「ミーーーホさん。さっきからすごいこと言ってますよ!」

 ・

 ・

2秒の沈黙。

「いやー、そのー、私は、その、その、そーの、その?その~なんて言うか、その~、ぜ、全部忘れてください!」

さっきから、「その」しか言っていないぜ。

「す、すいません!変なこと口走ってしまって。私、変ですよね?」

「いや、大丈夫です。むしろ、気を遣っていただいて申し訳ありません。」

落ち込んだ顔をするミホ。困ったな。。

知り合って間もない男女が同じ屋根の下。である俺が...と思うが。

本人がいいと言っているから、いいか。決めた!

だが、けっっっして下心ではない、と俺は自分に言い聞かせた。本日2度目じゃん!

「では、お言葉に甘えて、泊まってもいいですか?」

俺が言うと、嬉しそうな顔をするミホ。なんで?

「全然いいですよ。」

「ありがとう。」

これで寝る場所は確保できた。で、次は...と考えていると。

「では、改めまして。私は大空美穂です。」

ミホが急に姿勢を正し、かしこまって言う。え、どうした?急に。

俺も同じように言ってみた。

「我はマレット・フレーツ。」

なんなんだ、突然。これは、何かの儀礼か?

「よろしくお願いします。」

ミホはそう言いながら、うやうやしくお辞儀をした。

俺もよくわからないまま、お辞儀した。で、最後は握手。

なるほど、友好の儀礼か。


俺は話を続けた。

「次になんだけど、この世界ってお金は稼がないと暮らせないよね。」

「はい。」

「どこか仕事できる場所知ってる?」

ミホに聞いた。

ミホは、言いにくそうに言った。

「たぶんマレットさんは戸籍登録をしていないと思うので、働けません。」

「え、『戸籍登録』?この時代にもあるのか。昔のものではダメかな?」

「ダメに決まってます。しっかり、1からやってください。」

そうか、めんどくさいな。

「どこでできるの?」

「役所ででできます。」

「今すぐできる?」

「明日になれば。でも、マレットさんは眠りから目覚めたばかりですし。すぐには、発行されないと思います。」

そうか、なるほど。???今さらっと聞き捨てならないこと言ってなかったか?

「俺が『目覚めたばっか』って、どこで聞いた?」

ミホに詰め寄った。

「そ、そんな怖い顔で見ないでください。」

涙目になるミホ。

「ごめん。悪かった!」

俺は謝って、ミホに話をうながした。

「2年前のあの日の後、図書館に寄ったんです。そこで、たまたま手に取った本が、ある伝説の本でした。その冒頭に書いてあったのが、

『5万年前に眠りし地上最強の魔術師。名をマレット・フレーツ』

という文章です。印象深かったので、覚えていました。だから名前を聞いたとき、内心とても驚きました。」

なるほど。偶然に偶然が重なっている。

「後ですね、その本に、マレットさんを祀る宗教があると書いてありました。」

へえーそうなんだ。 って、はぁーーー!?!?

「我が神!?」

「我って。ハハ。」

あ、またいつもの癖。

「そうなんです。ですが、それぐらいしか書いていませんでした。」

俺が神……。友人の魔術師が聞いたら、絶対に爆笑される。

「とりあえず、話を戻そう。」

とは言ってはみたものの、『マレット教?』は気になる。その情報がもっと欲しい。

「あ、すいません。さっきの補足ですが、たぶん、日本生まれでないマレットさんは、出生も分からないので戸籍登録も難しいかと。。」

そうなのか。戸籍登録できなければ働けない。働けなければ、お金は手に入らん。お金が手に入らなければ、世界の料理も食べられん!困った。

やはり、これしかない。

「魔法を使う。」

「え!!」

「役所に行ったら、職員全員に『催眠』をかけて手続きする。」

「そんなことに魔法を使うんですか?」

え、そっち!そこに引っかかる?

「ミホは、人に『催眠』をかけることには何も言わないの?そんなズルい魔法は使うな、とか...」

「人を傷つけるわけではないですし。……!ま、まさか。『催眠』を私にかけて、あんなことや、こんなことをしようとしてるんですか!マレットさん?でもその時は、優しくお願いします♡。」

また暴走モードが始まったか?

「するわけないでしょ。」

俺は答えた。

「本当ですか?」

ミホが真顔で聞いてきた。

「冗談ですよ!」

ミホが笑いながら続けて言った。

だめだ、よく分からない。ミホは大胆なのか、恥ずかしがり屋なのか?


俺は話を元に戻した。

「とりあえず、明日の予定はそういうことで。」

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