閑話

第8話 不足しているのは

「ここまで来りゃあ、大丈夫か?」


「うぅ、おえぇ……」


 距離を取れたと理解した途端、嗚咽を漏らす純汰じゅんたを横目に、景梧けいごは先程の保季やすとき霧彦きりひこの戦いを振り返っていた。


(あの青髪も動き自体は凄かった。早かったし、何より取捨選択の仕方が良かった。……だが、魔女が助力? それも、姿を持って? そんなこと、俺はモノロエから聞いてねぇ……モルガン? だったか? それが特別なのか?)


 景梧はアーサー王伝説についてほとんど知識がない。ゲームも馴染みがないし、小説なんてそもそも読まない。だからモルガンという存在についても全くわからないのだ。

 

「おい、ガキ」


「うぅ、うぅぅぅっ!」


 未だ嗚咽を漏らしている純汰に向かって、乱暴に近くのカーテンを破いて投げ付けた。二人は今、エントランスホールのようなところまで退避してきていたのだ。


「うわっ!」


「いい加減、見てるこっちまで吐きそうになんだろーが。拭け」


 言われて、純汰はゆっくりと顔を拭きだした。それに視線をやることなく、景梧は思考を巡らせる。


百瀬川ももせがわ霧彦……あんなに危険な奴とアイツがつるんでやがったとはな。そして、死……ねぇ?)


 景梧の弟、朝春あさはるは研究室での実験中の事故で死んだと聞いている。だが……。


(アイツの死が事故死じゃなかったとして、百瀬川とこの状況、どう繋がる?)


「あ、の……!」


 声をかけられて、横にいる存在を思い出した景梧は、ようやく視線をそちらに向ける。


「お兄さんは、怖く、ないんですか……?」


「あ? 死ぬのなんて誰だって怖いに決まってる。だから、生き残りてぇと思うんだろう? あの青髪の兄ちゃんは残念だったが、おかげで厄介な奴がいるとわかったんだ、死に感謝だな」


「ひ、ひどいです! 人が! 死んでるんですよ!?」


「あぁ死んだな。だが、俺達も状況は同じだろ? ここじゃるか、られるかだ。さっきので実証されただろう? ならせいぜいその死を糧にしてやるしかねぇだろ? それとも、てめぇはご冥福をお祈りしますっつって善人面で墓でも建ててやんのか? めでてぇ頭だ、そんなことしてる間に殺されるぞ? 本当に考え無しだな」


 あまりの言いように、純汰は思わず目を瞬かせる。だが、景梧はそれを一切気にすることなく、話を続ける。


「おい、ガキ。お前はアーサー王伝説についてどこまで知っている?」


「え、えーっと……? アーサー王って人がいて、エクスカリバーって剣を持っていて……あと、マーリンって魔術師がいて? みたいな……と言っても僕もゲームで少し知ってる程度でして……」


 純汰の答えを聞いた景梧は、静かに口を開く。


「そうか、じゃあ知識としてはそんなに知らねぇのと一緒か。あぁ、先に言っておくが俺はアーサー王伝説なんざ全く持ってしらねぇし、興味もねぇ。だが、調べる価値はありそうだな」


「調べる? と言いますと?」


 目を丸くする純汰に対し、不敵に口角をあげながら告げた。


「言ったろ、考え無しのてめぇのかわりに考えてやるってな? だからこそ情報を集めたい。それとも……ここで殺し合うか?」


 その言葉に、純汰は首を横に振り答えた。


「僕はお兄さんと殺し合いたくはありません! 別の道を模索したい! だから、一緒に情報を集めましょう! ……最期がどうなったとしても、後悔はしたくないので!」


「はっ! 肝だけは本当に据わってんな? じゃあ行くぞ?」


「はい!」


 そう決めた二人は、長い廊下を再度歩き出した。

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