第7話 最初の脱落者

(当たりは……した! けど!)


 保季やすときの狙いは正確だった。確実に狙えていた。

 ――だが現実は、甘くはないのだと思い知らされた。


「ふぅ~今のはヤバかったですね?」


 モルガンの防御結界をより強固にしたのだろう、霧彦きりひこが両手剣を地面に突き刺して立っていた。


「そん……な……!」


 渾身の一撃はたやすく防がれ、魔力も尽きた。動こうにも指一つ動かせない。保季が悟ったのと、いつの間にか接近していた霧彦が彼の身体を斬り裂いたのは同時だった。


「あっ」


 それが保季の最期の言葉だった。走馬灯が一気にかけ巡る。


 ――ねぇ、やす君。約束、してくれる?


 ――なんだい?


 ――私より先に死なないでね?


 ――なにそのお願い? 随分と物騒だなぁ。


 ――もう! 真面目に言ってるのよ? お願い、やす君。本当に、お願いだから……先に逝かないでね?


(ごめん、約束……まもれ、な、か――)


 保季の瞳から光が消えて行く。血が流れ、身体から温度が消えて行く。死を悟った保季に、残酷な言葉がマゾエから言い放たれる。


『残念です。あなたには期待していたからこそ、トリスタン様として出迎えましたのに……期待外れもいいところでした』


 利用されていたことを死の間際に悟りつつ、保季はその命を散らした。瞳に涙を浮かべながら。


 その亡骸を見つめながら、感情のない声で霧彦が深く息を吐く。そして静かに誰に言うでもなく呟いた。


「生き残れたなぁ……ふう。それにしてもオレが――モルドレッド、ねぇ?」


 含んだ言い方をすると、霧彦が見学していたに向けて視線と剣を向ける。


「いつでも出てきてくれていいんですよー? ほらほら、殺し合わないと~」


 挑発を含んだ物言いにも、建物との距離のせいか、それともなにかしら別の理由か? 返事はなく、しばらくしてが撤退して行くのがわかった。


「逃げるのかよ~。ま、どうせ殺し合うんだし、どうでもいっか!」


 そう霧彦が呟いてその場から離れようとした時だった。男性のアナウンスがどこからともなく響いてきた。


『最初の脱落者の紹介タイムだよ! 死んだのは、トリスタン卿もとい烏頭保季君でした! 残念無念! いや~渾身の一撃の矢は良かったんですけどねぇ! もったいない! いやぁ実にもったいない! 本当に残念でなりませんね! 次の戦いはどんな激戦が繰り広げられるのか!? 期待とともに、次のアナウンスをまっていておくれよ! それじゃあ、シーユー!』


 軽薄なアナウンスにも、興味なさげに霧彦は歩き出す。なお、モルガンはペンダントの中に戻ったようで姿はなかった。

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