窓辺のお日様

トン之助

ぶきようなやさしさ

 貴方はいつもわたしのそばに居てくれた。


 人と話す事が苦手で、それを隠すようにいつも本を読んでいたらいつしか周りが勘違いをしていた。


 話したくない訳じゃない。

 ただ少し――ほんの少しだけ勇気が必要なだけ。

 いつしか窓側の一番後ろはわたしの指定席になっていた。


 ――深窓の令嬢


 教室でそんな言葉が聞こえてきたけど、構わずに無視を決め込む。本を読んでいる間は夢中になれたから。


 先人たちが何を考え、何をして、どのような結末になるのか。紙の中の物語を紐解くようにいつかわたしの心も紐解いて欲しい。そんな淡い期待を抱いてもうどれくらいになるのだろう。



 わたしの後をつけてる人が居るらしい。


 叔父様が営む本屋でいつものように談笑しているとそんな事を言われた。話を聞くとわたしが帰った後にわたしと同じ本を買うのだそうだ。


 背中がぶるりと震えるのを我慢して後日叔父様と一緒にその人物を観察してみると。


「あっ」


 その人物は同じクラス、同じ図書委員の男の子。


 少しやんちゃな雰囲気の彼だけど、いつもわたしの分の仕事をしてくれるそんな男の子。


 背中の震えはいつしか消えて安堵のため息が漏れていた。


 彼はどんな人で何に興味があるのだろう?

 彼の好きな食べ物は何かな?

 彼はどんな音楽を聞くのかな?

 彼はどんな本が好きなんだろう?


 図書室で隣に座る彼の横顔を、本のページをめくる振りをして覗き見る。


「……」


 ライオンみたいな人だ。

 ネコ科動物で百獣の王。

 お昼寝が好きで気分屋でお肉を良く食べてそう。


「ん?」


 覗き見がバレそうになってわたしは咄嗟に目線を逸らす。


「……あぁ、な、なるほど。もし、今日暇ならゲームセンターにでも」


 今わたしが読んでる本はぬいぐるみが沢山出てくるお話。それを見て彼はそう提案してくれたのだと思う。

 額いっぱいに汗をかいて、手のひらにマジックで書いたカンペがチラリと見え隠れ。


「わたし、ゲーム下手だよ?」


 それを含めて誰かと何かをするのはとても苦手。


「そんな事気にしなくていいのに」


 ライオンみたいな彼は太陽みたいな顔で笑うのだ。


「安心していいよ、僕も下手だから!」



 ライオンのぬいぐるみはわたしの部屋の窓辺で日向ぼっこ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

窓辺のお日様 トン之助 @Tonnosuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ