ボクとぬいぐるみ。

星 太一

ナナくんのぬいぐるみ

 * * *


 ぬいぐるみ【縫いぐるみ】

〈名〉

①布を縫って、中に綿などをつめ、動物などの形につくったもの。

②[芝居(しばい)などで]動物などの役をするときに着る衣装(いしょう)。着ぐるみ。


引用:小野正弘・市川孝・見坊豪紀・飯間浩明・中里理子・鳴海伸一・関口祐未編(2015)『三省堂現代新国語辞典』第五版 三省堂 1046p


 * * *


 むかしむかし。ある所にナナくんという男の子がいました。


 元気な元気なさんびゃ……七才の男の子で、あそぶことがなによりの楽しみ。

 今日もともだちのチコくんといっしょにセミ取りをして楽しみました。


 そんなナナくんにはチコくんのほかにもう一人おともだちがいます。


 それがくまのぽーでした。

 ちなみにこのぬいぐるみのお名前ですが、ぷーにするとチョサクケンがシンパイなので(ガスッ!)


 ……。


(お腹を押さえて不満そうな目つき)


 ……。


 ……そんなくまのぽーとはじめて出会ったのはナナくんが三才のおたんじょう日のときです。

 ママがナナくんをよんで言いました。


ママ「ナナくん。おたんじょう日おめでとう!」


パパ「いつもいい子のナナくんにはおたんじょう日プレゼントをあげようね」


「わあ! なんだろー!」


 プレゼントボックスの中に入っていたのは、ふかふかのちゃいろいクマのぬいぐるみ。ほおずりするとあったかいおひさまのいいにおいがします。


「わあい、うれしいな! パパ、ママ、ありがとう!」


 ナナくんかぞくはいつもにこにこ、なかよしです。


 * * *


 しかしある日のこと。


「あれ? ぽーくんがいなくなっちゃった!」


 朝おきたら、ナナくんがいつもいっしょにねているぽーくんがいなくなっています!

 ベッドの下をさがしても、タンスをぜんぶあけても、どこにもいません。


 ちょっとママとパパに聞いてみましょう。


「ママ、パパ。ボクのぽーくん知らない?」


ママ「ぽーくん?」


パパ「あ、ああ……。知らないよ」


 ……これはあやしい。

 きっとぽーくんのことをママとパパがうらやましがって、かくしたにちがいありません!


 ナナくんはぽーくんのことをたすけなければ、と思いました。


 おなべのヘルメット、くさやきゅうのバット、それからおやつのクッキーをいくつかもって、しゅっぱつです!

 ……ちなみにクッキーはでかけるまえに全ぶ食べてしまいました。


 まずはいっかいのリビングをさがします。


 ママ「ナナくん。ぽーくんはリビングにはいないわよ」


「本当かなぁ」


 たしかにママの言うとおり、ぽーくんはリビングにはいませんでした。

 でも手紙がのこされています!

 あけてよんでみると、ぽーくんからナナくんにメッセージでした。




『ナナくんへ


 あわあわちゃぷちゃぷ たのしいな。

 ナナくんもいっしょにおふろに入ろうよ


 ぽーくん』




「おふろだな!」


 そうかんがえたナナくんはおふろに向かうことにしました。


 ――、――。


 水色タイルのかべがきれいなおふろにやってきました。あわあわぶくぶく、おふろがきもちよさそうです。

 でも今はおふろにぶくぶく入るひまはありません!

 ぽーくんをさがします。


 しかしぽーくんはどこにもいなくって、かわりにまたお手紙がおいてありました。




『ナナくん


 おやつがいっぱい食べたいな。

 れいぞうこのケーキをいっしょに食べようよ。


 ぽーくん』




「食べる! ぽーくんといっしょにボクもケーキ食べる!!」


 元気もりもりでナナくんはキッチンに走ります。


 キッチンにはパパがいました。

 ぎゅうにゅうをゴクゴク飲んでいます。

 ナナくんもちょっともらいながらぽーくんをさがしました。

 でもケーキもぽーくんもそこにはいません。


 ナナくんはちょっぴりかなしい気もちになってきてしまいました。


 このまま、本当にあえなかったらどうしよう。

 そう思うとどんどん悲しい気もちになってきます。


「ぽーくんどこなのー!」


 ついにはわんわんなきだしてしまいました。


 それを見たパパ。

 ナナくんのそばによいしょ、とすわってよしよしと頭をなでながら言いました。


 パパ「ナナくん。心ぱいはいらないよ。じつはね、ママもパパもぽーくんのいる場しょをしっているんだ」


「本当……?」


 パパ「ほら、こっちにおいで」


 言われたとおりにパパについていきます。


 パパは二かいのパパとママのお部屋につれていってくれました。


 そこでまっていたのはママです。

 ママはクローゼットの前に立って、まっていました。

 クローゼットにはなにやらこうかいてあります。




『ぬいぐるみ の びょういん』




 ぬいぐるみのびょういんとは、一体どういうことなのでしょう。


 パパ「ほら、ナナくん。開けてごらん」


 パパはナナくんにクローゼットのとびらをあけるように言いました。

 言われたとおりあけてみると、中にいたのは――きれいになったぽーくんです!

 外れかけていたぼろぼろの左うでも、とれかけていたお目目も、もとどおり!


 じつはずっと大切にしてきたぽーくんでしたが、ナナくんとのゆうかんなぼうけんにつき合っているうちに、ちょっとずつけがをしてしまっていたのでした。

 でも小さなナナくんはぽーくんをなおすことができないし、でも、ぽーくんをはなすというのもいやだったので、今の今までほうっておいたのです。

 しかしうでやお目目が取れてしまえばかなしむだろうと思ったパパとママ。ナナくんがねているうちにぽーくんをいそいでびょういんに入れて、いっしょうけんめいなおしてくれていたのです!


 ああ! ナナくんかぞくはいつもにこにこ、なかよしです!


「パパ、ママ! ありがとう、ぽーくんがなおってボク、うれしいよ!」


 ママ「それはよかったわ。ママもうれしいわ!」


 パパ「本当に! これからもママとナナとでなかよくくらそ……ウウ、ウウウウーン」


「何してんだよ、ぬいぐるみが喋んな!」


 * * *


「まあまあまあ」


 縫いぐるみをばしばし叩いた友人ナナシをなだめ、チコは掛け時計を指差した。

「ナナシ、もうやめよう。もうすぐ夜明けだし、十分遊んだじゃないか」

「やだよもう少し」

「そうはいっても……ぬいぐるみが耐えられなくなってしまうよ。そしたら遊べなくなっちゃう」

「……」

「それにもう朝だよ? 正直いうと僕、眠い――ふわぁーあ。もう夜通し遊んだから良いじゃん」

「……、……ちぇ。の出る旅館だなんだって言ってるの自分たちのくせに!」

「うんうん」


「……もう少しでボクのパパとママに出来そうだったのに」

「……」


 そう言ってのナナシとチコはから飛び出し、自分達の家へと帰っていった。


 憑依されていたニンゲンはというと、帰り際に不思議で面白い体験をしたと喜んでいたそうだ。

 お告げで縫いぐるみのぽーくんを治せと言われたとか言われないとか。


 * * *


 ナナくんかぞくはいつもにこにこ、なかよしです。


 おかげで座敷童の出る旅館は今日も繁盛している。


(おわり)

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ボクとぬいぐるみ。 星 太一 @dehim-fake

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