添い寝王決定戦

ムタムッタ

アコちゃんの隣は誰だ!


 アコちゃんは最近ひとりで寝るようになった女の子。夜は寂しいようで俺たちがまだ手放せない。




 そう、ぬいぐるみ俺たちが。

 



 すやすやと眠るアコちゃんを、全員で囲む。いつもながら幸せそうに寝ている。


「アコちゃんは寝たか?」

「えぇ、見なよ。ぐっすり」


 アコちゃんの横には、ちょっど俺たちが入りそうなスペースが一体分ひとりぶん。みんなで囲ったところで、抱きかかえられるのはひとりだ。


 俺たちは、その空間を毎夜奪い合う。


「じゃあ、とっととやろう──ぜッ!」


 刹那の不意打ちだった。


 ゾウの奴がゴリラにベッドから叩き落とされた。南無。吹き飛ばされたゾウを見てしまった紅一点のトラが叫ぶ。


「ちょ、ちょっとアンタ!」

「今夜のアコちゃんの隣は僕のものだ!」

「ぎにゃーっ!」


 モフッと、トラの顔面にゴリラのストレートが入る! 不細工に潰れた顔のまま、トラもベッドの下へ消えていく……


「ウホウホウホッー! 絶好調──」

「隙ありィッ!」


 新入りのトリケラトプスがゴリラへ突進。両者もろとも脱落していった。


 自滅とは、情けないぞ新入り。


「ヒヒーン、蹴落としてくれてありがとう〜。これはオイラの勝ちかな?」   


 アコちゃんのパパがゲームセンターから連れてきた、飾り付きのウマが嘶く。こいつも新入り。ダメだ、わかってない。


「おいウマ、後ろだ」


 背後に回り込んだ俺が親切に呼びかけながら、ウマの尻へドロップキック!


「ヒヒ〜ンッ!」


 直後にポフ、という音。

 最小限の戦いで勝ってこそ安らかに眠れる。


「ぴぇー! おたすけ〜!」


 ライバルの悲鳴がベッドの上に響く。

 それは水の中ではなく、空を舞うイルカ……そして奴を投げたのは……


「やはり残ったな、クマ!」


 俺の名を呼ぶのは、丸っこい耳をしたファンシーの権化。俺の1番のライバル、コアラだ。


「お前もだろう、コアラ!」

「悪いが今日はオレがこの部屋に来て一周年なんだ。勝たせてもらうぜ」

「同期だからな、俺も同じだ!」


 最近勝率は五分五分、今日はどうなる!

 いいや、今日は俺が添い寝をするんだ!


「クマァッー!」

「コアラァッー!」


 激突するもふもふの毛──にはならず、


「むぅ!」


 アコちゃんの寝相で吹き飛ばされて、お互いベッドの下へリングアウト!

 

「ぶべぇ」

「ぐふぁ」


 屍達が文字通りクッションとなり、モフッと床に転がる。


「くそう……また引き分けかー」

「アコちゃんの寝相強過ぎる……」


 真夜中の室内で、今日の戦いが終わる。

 こんな日もある。


 明日こそは! アコちゃんの隣に!


「じゃあそろそろ片付けるぞ〜」


 おー、と俺たちはとてとて撤収を始める。ベッドから落ちてそのままだと、アコちゃんのママが怒るからな。


「整列ッ!」


 ベッドに向かい合うように、カーペットの上で俺たちは並ぶ。試合終了でノーサイド。綺麗に並んで今日はおしまい!


「おやすみアコちゃん〜」


 一度ベッドから落ちたら、自力では登れないのだ。これがぬいぐるみの悲しいところ。


 だから落ちないよう、必死に争う。



 俺たちの戦いは、まだまだ続くのであった……

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