似て非なる【KAC2023 お題 ぬいぐるみ】

空草 うつを

ぬいぐるみ

「どっちが正解なんだ?」


 かれこれ小一時間、ミュージアムショップのぬいぐるみが並べられている棚の前に立ち尽くしている。

 古生物をこよなく愛する弥生ちゃんに、誕生日プレゼントは何がいいか聞いた時に見せられた画像をたよりにやって来たのだが。それが間違いだった。きちんとその古生物の名前を聞いておくべきだったのだ。

 古生物は個性的な見た目をしているし、名前はどこか小難しいから見た目だけで探せるだろうと思ったのだ。まさかここまで似ているのがいるとは。


「ディメトロドンかエダフォサウルスか」


 どちらも四つん這いのトカゲのような姿。背中には帆に似たものがあるのも一緒。唯一違うのは、ディメトロドンは肉食で歯が鋭く、エダフォサウルスは植物食で歯が鋭くない……ってそんなの分かるか!

 ぬいぐるみ、口開いてないし!

 強いて違いがあると言うなら、エダフォサウルスはおっとりした顔をしていて、ディメトロドンはつり目で恐い顔をしていることくらいだ。


 画像を見せてもらった時、弥生ちゃんは名前を言っていた気がする。思い出そうとするが、名前を言っている弥生ちゃんの声に雑音が入ってしまう。

 人間の記憶はなんて曖昧なんだ。俺のポンコツな頭をわしゃわしゃと掻いていると、雑音が少しだけなくなった。


 ——サウルスが欲しいです。


「サウルス、って言うことはエダフォサウルスの方か?」


 優しい顔のエダフォサウルスを手に取ってみたものの、やはり少し自信がなくて結局ディメトロドンも一緒に買ってしまった。




 家に帰って誕生日パーティーの準備をしていると、弥生ちゃんが仕事から帰って来た。


「おかえり」

「ただいまです」


 弥生ちゃんがおろしたリュックからは、いつものようにアノマロカリスのぬいぐるみの触角がぴょんと飛び出している。


「お誕生日おめでとう。これ、プレゼント」


 ラッピングされたぬいぐるみを差し出すと、弥生ちゃんは目を輝かせた。


「買ってきてくれたんですね、スピノサウルス!」


 ん? 今、何て……?


「結構大きいけど、まさか巨大なスピノサウルスがこの中に……」


 サウルス違いだった。そういえば、スピノサウルスも背中に帆みたいなの、あったな。


「弥生ちゃん、ちょっと待っ——」


 しかし、弥生ちゃんはもうラッピングを解いた後だった。


「これ、ディメトロドンとエダフォサウルス??」


 目を丸くしてふたつのぬいぐるみを交互に見やっている。スピノサウルスが入っていると思ったら、違う古生物が入っていたのだから驚いて当然だ。


「ごめん弥生ちゃん! 俺、勘違いを……」

「嬉しいです!! この子達、実は欲しかったんです!! 今、アースミュージアムの企画展でペルム紀を特集してるんです。その限定商品なんですよ! エダフォサウルスとディメトロドンはちょっとマイナーなのでぬいぐるみはどこにも売ってなくて。なのでとっても貴重なのです! 理一さん、ありがとうございます」


 鼻歌まじりにスキップして、リュックにいるアノマロカリスに新入りのふたつのぬいぐるみを紹介している。

 リクエストは違ったけれど、喜んでくれて良かったと心の底からほっとした。

 ほっとしたらお腹がすいて、ぐう、と気の抜けた音が鳴った。それと同時に、弥生ちゃんのお腹からも、ぐう、とはらぺこの音がする。


「弥生ちゃんのために、とっておきの料理を作ったんだ。一緒に食べる?」

「はい、もちろんです!」


 誕生日のための特別なメニュー。今日もふたりで食卓を囲んで言い合うんだ。


「いただきます」

「召し上がれ」



(おわり)


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