白神書店クイズ大会

ばんがい

第1話

「本日は皆さまお集まりいただき誠にありがとうございます。それでは、これより白神書店クイズ大会の結果発表を行います」


少し音割れした手持ちスピーカーの音が店内に響く。


「いよいよですね」


「はい、誰が優勝かドキドキします」


「僕はね結構自信があるんですよ。なんたって、週に一度はここに通っていますからね」


「それはあなたが雑誌を買うからでしょ?別の本屋でも、何だったらコンビニでだって買える。僕みたいに専門書を買いにこの書店に来る人の方が、書店への愛着ってものがありますよ。ここに来れば予約しなくても買えるって大学でも評判なんですよ」


会場は楽しそうで、それでいてピリピリとした雰囲気が立ち込めている。誰もはっきりとは言わないが、この店を愛している常連ばかりだ。だからこそ「自分こそが優勝」という自信のあるものが大半だった。


白神書店は駅前にある本屋だ。立地のよさもさることながら、店主の人柄もよかった、そのためかなりの人がこの店を好んで利用している、まさに客に愛される書店であった。


白神書店クイズ大会は、そんな白神書店が開店30周年を記念して開かれた大会だ。もっとも、この書店に詳しい人が誰かを決めるために店長自らこの店に関わる問題を作って開かれた大会で、その問題数は膨大でしかもジャンルは多岐にわたる。店の歴史から、店内の本の並びまで非常に幅広い。まさに白神書店を知り尽くしてないと優勝は難しいだろうと思わせる問題だった。だからこそ、この大会に参加する常連客たちは静かに闘志をもやしあっていたのだ。


「それでは発表します、優勝はなんと全問正解、田中さんです。田中さんおめでとうございます!」


拍手とともに現れた男を見て、店長は微妙な苦笑いで、優勝トロフィーを男に渡した。


「あ!あの人は常連の……」


「常連なんですか?見た事ないな」


「はい、常連の立ち読み客です」


「そんなぁ」


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白神書店クイズ大会 ばんがい @denims

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