KAC「賀来家の日常」2.長男の辰

凛々サイ

長男の辰

「おっしゃ!」


 コンビニのレジ前で思わず大声を上げてしまった。10回目の正直でついに念願のモノを引き当てたのだ。それは最近SNSで話題のキャラクターで猫のぬいぐるみだった。


「ちょっと~たつ、自分の店でそんなに一番くじ引かないでもらえる? あ、もしかして好きな子にプレゼントしたり~?」


 レジ台から覗き見ていた母親がにやつきながら愉快そうに尋ねてきた。


「ちげーよ! このキャラが好きなダチに頼まれてんだよ! これが出るまで10回まで引いていいって。金も七千もらってるし。ちゃんとこの店に払ってるんだし別にいいだろ」

「ふ~ん。高校生にしては大金ね。そんなに欲しいの? そのぬいぐるみ」

「だから俺に頼んできたんだろ」


 母の不思議そうな顔を横目に他に当てた景品、そして目当てだった手のひらサイズのぬいぐるみをぎゅっと握りしめると、隣の家へ戻った。これできっとあいつも喜ぶはずだ。そんな顔が目に浮かぶと顔が少しほころんだ気がした。





「辰の母ちゃん! これすごくないっすか! 1回しか引けなかったのに、引き当てるとかやっぱ運良すぎだわ~。俺の見込みは確かだったわ~」


 日曜日の午後、飯を買いに自分家のコンビニへ訪れると、なんとアイツがいた。この上なく嬉しそうに、あのぬいぐるみを母親へ自慢げに見せつけていたのだ。


「の、のぶ! なんでお前がここにいんだよ!」

「お、辰! たまたまこの近く通りかかってさ。お前の親が経営するコンビニここだったよなって思って寄ってみた! ほらお前に頼んでたハチワレ! 1回で当てるとかマジお前神だわ!」


 学校にいる時と同じように無邪気に俺に笑いかけ、ぬいぐるみを掲げて得意気に見せるのぶ。その横で目を丸くしている母親が目に入った。


 一気に顔が火照った俺は、今すぐにでもこの場を去りたかった。


 その時、アイツの隣で母はいつもの如く豪快に笑いながら俺達に言った。


「さすが私の息子ね!」

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