ぬいぐるみの瞳

chomocho@処女作執筆中

西暦20xx年

20xx/03/03

ツギハギだらけのヌイグルミ




 今日も、何も言わない、その瞳。




 だけど、私がヌイグルミこの娘を見つめる時、私から、目を離すことが無いから、私はヌイグルミが好きだ。


 隔離された施設。


 閉鎖された環境。


 だから、この小さな世界で私を慰めてくれるのは、この、つぶらな瞳をしたヌイグルミだけなんだ。


 じっと、私を、私だけを見てくれる、その瞳。今日は、私を見て何を想うのだろう。


 考えても判る筈もない。


 このは、ヌイグルミなのだから。




 ある日、私の大切なヌイグルミが、傷だらけになっていた。


 施設の誰かに、やられたんだろう。


 この施設には、頭のオカシイヒトが、沢山いるから。


 でも、どんなに酷い事をされたって私は平気。


 施設の、モノを治すのが上手なヒトが、何でも治してくれるから。ツギハギだらけになっちゃったけど、コワレる事はない。


 その瞳は、今日もいつもと変わらない。


 痛くない?大丈夫?それとも、やっぱりヌイグルミは、痛みなんて感じないのかな?そうなのかもしれない。


 この瞳が、私を見てくれる限り、私は平気なの。




 許せない。


 私の可愛い可愛いヌイグルミ。


 この前、傷だらけにされてから、ほんの数日しか経っていないというのに、また、傷が増えている。


 しかも、それは、その顔にあった、瞳が無くなっている。


 この施設の、頭のオカシイヒトは、どうしてこんな酷い事をするのだろう。私には、判らない。




 私は、悲しくて、悲しくて、数日もの間、泣き明かした。


 でも不思議なの。


 私は、ぬいぐるみ。


 今まで、どんなに悲しくても、涙を流す事なんて、出来なかった筈なのに。


 不思議と、私の身体は調子が良い。


 私がこの施設で目を覚ました時は、視界がぼやけていた。だけど今は、はっきりとモノを見る事が出来ている。


 ヌイグルミに、ツギハギが増えるほど、身体の調子が良くなっている。




 最近、あの娘ヌイグルミを見ない。


 何処へ行ってしまったのだろう。


 私の、大切なヒト。


 ツギハギだらけのヌイグルミ。


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