古本屋のおかしな出来事 2

瑞多美音

古本屋のおかしな出来事 2


 ここは代々続く小さな古本屋だ。小さく古びた店舗。扉についた小さなベル、本棚にみっちりと詰められた古い本、店主のいるカウンター。この店では時々おかしなことが起こる。


 店主が新聞や本を読む定位置のカウンター。きれいに拭かれたカウンターの隅に一体のぬいぐるみがいる。今日はそのぬいぐるみのお話だ。


 このぬいぐるみは店主の母が端切れで作ったものらしい。店主が幼い頃は一緒に寝たり持ち歩いたが大人になる頃にはカウンターの上に置かれた小さな座布団が定位置となった。

 所々ほつれているが大切に扱われているのがわかる。若干、熊なのか狸なのか判断しづらいがそれもご愛敬だろう。



 そのぬいぐるみはトコトコと空中を歩いて本を整理することが好きらしい。

 気付くと作者順に並び変わっているとか。

 店主が読んでカウンターに積んでいた本もいつの間にか作者順に……


 自分より大きなサイズの本も何のその。ふわーっと浮かせてしまうのだ。店主はこれ幸いと浮いた場所を掃除する。掃除パートナーである。しかもほこりを被ってもきれいなままという謎仕様の。


 「お、ぬいぐるみくん。そこの棚も頼むよ」

 『うむ』

 「いやー、助かるなぁ。最近腰が痛くてね。重たい本動かすの大変だったんだよ」

 『うむ。まかせるがよい』


 もちろん、店に客が来ているときはただのぬいぐるみ……時々、店に入った途端に空中の本やぬいぐるみが落ちてびっくりする人もいるが……まさか浮いているとは思わず、積んでいた本が崩れたのだろうと考える。その秘密を知っているのは店主だけ。


 『うわぁー!次は僕って言ったのにー!』


 チリーン!チリーン!と自己主張が激しい。


 『ふぉっふぉっ!年功序列じゃよ……太郎は儂の弟みたいなもんじゃからの』

 『僕だって長くいるもーん!次は僕だよねっ?』

 『さあのぉ……』


 自己主張の強い彼の話はいつになることやら……他のおかしな出来事はまたいずれ。


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古本屋のおかしな出来事 2 瑞多美音 @mizuta_mion

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