第三話〜バンシー〜

皆様こんばんわ。

今回で三話目になります。

ゆっくりですが頑張って更新していきますので読み続けていただければ幸いです。

それではどうぞ。


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「先ほどからお前専用の修行を考えていたところだ」


「アンタ自分の歴史話しながらそんなこと考えてたのかよ…だからアンタ、俺のパーソナルな情報ばっか聞いてきたのか」


「弟子のことを知るのは当然であろう。我が育てる以上ハンパはありえん。お前を知らねば育成方針が立てられん」


少年が影の国やスカーディア、自分の状態などを聞いていたのに対して、スカーディアからは少年についてばかり尋ねられていた。

特技や年齢、体重や体脂肪率、得意な武器や嗜んでいる武術、魔法属性などコアなとこまで聞いてきて流石にわかるかと突っ込んだりなんてこともあった。

勝手に盛り上がるスカーディアに対して、少年はずっと思っていた疑問を放った。


「そもそもの話、アンタは師匠を名乗るほど強ぇのかよ。とても強そうには見えねぇが」


 少年がずっと思っていた疑問をスカーディアに投げかけると、彼女を中心に空気が固まった。数秒間、微動も反応がなかった彼女は、やがて肩を震わせ、口角を釣り上げた。


「ふっ、フフフフ……よもやこの我に強いのかだと……そんなことを問われたのは生まれて初めての経験だ………」


少年の耳にも聞こえる程度に呟くスカーディア。そもそも彼女にとってまともな対話自体が初めてのことであった。しかし自分の話を、世界の危機を救った救世主たる伝説を聴きながらもこんな舐めた態度を取られるとは夢にも思わなかった。

笑みを浮かべる表情と言葉とは裏腹に、纏う空気は先ほどまでの楽しげなものとは打って変わって怒りのオーラを感じる少年。何か彼女の踏み抜いてはいけない地雷を土足で踏み抜いてしまったことを少年は直感したが、少年も一度吐いた言葉を飲み込むのは己のプライドが許さなかった。


「この国に理性がある存在がアンタだけだったとしても、ハンパな奴に教わるのはこっちとしても勘弁だ」


「面白い…愉快なやつを弟子に取ったものだ。いいだろう」


スカーディアは体を翻し、バルコニーから部屋へと歩を進めながら、背中越しに少年に語りかける。


「下へ降りて外へ来い。二度とそんな口が聞けぬよう、直接見せた方が早いであろう」


そう言い残し、スカーディアは少年を残して部屋の外へと出ていった。





 少年は言われた通り部屋に戻り、そのまま外へ向かうため部屋を出ると、目の前には螺旋状に上と下を繋げる階段が存在した。自分のいる高さから地上までは相当な段数があることが覗いてみるとよくわかる。階段を降りながら、周囲を見渡すも、何処もかしこも同じ景色であった。先ほどバルコニーで眺めた薄暗い影の国とは打って変わり、全ての部屋、飾り、模様が白一色で統一され、違いを見て取ることは少年には不可能だった。

長い長い階段をひたすら降り、ようやく階段の終わりがやってくると、巨人が通るのかというほど大きな扉が一枚、正面に現れた。

 少年は己の小さな体全ての力を使って扉を押し、少しずつ扉の片側をずらして外へ出ることができた。

外へ出るのも一苦労。

病み上がりの起き上がりの身には既にここまででもリハビリがてらの修行のようであった。

ようやくスカーディアの意図しない最初の課題をクリアした少年の目の前には、青い芝のガーデンが広がり、その奥には先ほどの扉よりも遥かに大きい門が外界との領域を隔てるように閉ざされていた。

門から左右へはそのまま真っ白な壁が広がり、自分の位置を中心に周囲を囲んでいた。ガーデンに出来ている整備された通路を歩き進みながら、周囲を見渡し、その視線が背後へ向けられると、先ほどまで自分がいた建造物の全貌が目の前に広がった。


「でっけー城だ…」


それはかつて少年がアルベリア王国の首都で見た、王宮に勝るとも劣らないほどに大きな白亜の城が聳え立っていた。大きいだけでなく、何者にも犯されず、汚れを払うかのごとき美しさを前に、少年はただ圧巻されていた。


「遅いぞバカ弟子」


 呆然と白亜の城を眺めていた少年の背後から、耳に透き通る明瞭な声がかけられる。少年が背後を振り返ると、そこには先ほどまでのゆったりとした華やかなドレス姿ではなく、その美しくすらりとした流麗な身体のラインを余さず見せつけるかのような、体に張り付く衣装に様変わりしたスカーディアがいた。


「なんだ……その服装は」


「これか?これは私が戦闘用に用いている霊装だ。あのような動きにくいドレスで戦闘はせん」


スカーディアの言う通り、先程まで着ていたひらひらしたドレスでは動きにくいのはわかるが、今の服もどうなんだと思う少年。見た感じ防御力がありそうな部分は肩と胸と腰についた防具くらい。それ以外の部分は防御力が皆無な布切れで覆われている様にしか見えない。手には彼女の主要武器であろう荊を思わせる様な朱殷の槍が握れていた。


「霊装?」


「うむ。これは私自身が魔力で編み込んで作り出したものだ。お前のその防御力が薄そうだなどと考えていそうな頭では及びもしないほどに伸縮性、耐久力ともに優れた逸品である」


読まれている。自分の心中を寸分違わず当てられた少年は気まずそうにスカーディアから顔を背ける。スカーディアはため息をひとつ吐くと、荘厳な気配を放つ門へと歩を進める。


「まったく、我も無礼な弟子を取ったものだ。まあいい…従順過ぎてもつまらぬ。馬鹿な弟子ほど可愛いということもあるだろう」


スカーディアは門の前までたどり着くと、彼女よりも遥かに大きい門の前に手をかける。


「外はとても愉快なことになっている。今回は我の力を見せつけることが目的だ。お前はそこから、門の外に出るではないぞ。うっかり死にたくなければな」


「?どういう…」


少年の疑問に答えられるよりも早く、スカーディアは、彼女の細腕では到底開くことが困難に見える門を軽々と押し開いた。

 門が開けば当然その先にある光景が目に飛び込む。しかし、少年とスカーディアの前に広がっていたものは、ただ一つの色だった。



 見えるものはただその色のみ。しかし、ただの黒ではなかった。蠢いている。いくつもの黒が門の前でウヨウヨと蠢いているのだ。その不気味な光景は、見る者によっては吐き気を催す光景だった。現に少年は口元を押さえ、喉元まで迫り上がってきた胃液を必死で飲み戻した。


「なっ、んだ…これ」


 「これが、スカディラビィアに巣食うもの、バンシーだ」


「これが、バンシー…」


 よくよく見れば、黒の一つ一つはさまざまな形をしていた。犬のような形をした獣。人のような形をしたもの。巨人の用に大きなもの。全て歪でありながら、何らかの形を表していた。それら一つ一つはまるで何か求めるように、されど行方を阻まれるように踠いていた。


「バンシーは地上で亡くなった者達の情念だと説明したな。アレらは死者の記憶を元にさまざまな形を成しているのだ。我が城には我が張った結界があるため、バンシーが侵入することができぬ。故にあのように踠いておる」


「だから門より外に出るなって…一体何体居やがるんだ……」


「ふむ…感知してみるに、ざっと千体といったところだな」


「千!?そんな大群がいつもこうやって群がってくるのかよ!」


 こちらが二人であるのに対して、襲撃にやってきた目視では到底数えきれないバンシーの数に、驚愕の声を上げる少年。幼い少年に取って、数というのはわかり易く立派な一つの力であった。他勢に無勢という言葉が頭をよぎる。驚愕に顔を歪めた少年に対して、スカーディアは首を振って応える。


「否、いつもはこんなことはない。バンシーは普段、生まれ落ちた場所でただ彷徨い歩くのが常だ。今回は極上の餌を感じてやって来たのだ」


「餌だって?まさかそれって…」


「お前のことだ。話したであろう?地上でバンシーが溢れた時、肉体のないバンシーにとって、生者の肉体は極上の餌だと。バンシー共はお前の肉体を求めて遥々ここまできたのであろうよ」


スカーディアの話を裏付けるように、バンシーたちは門の前に群がっている。これだけのバンシーが自分の生きた肉体を求めてやって来ているという事実に、少年の背筋に明確な恐怖の冷気が走る。そんな少年の動揺を察知したのか、スカーディアは少しだけ首を回し、半顔で笑って見せた。



「ふっ…案ずるな。この程度のバンシーとの戯れなど、我にとっては児戯に等しい。しかし、お前に力を誇示するにはちょうどいいというわけだ」


スカーディアはそう言って、姿勢を低くし、握りしめた槍を頭上に掲げる。まるで獣のような大勢で、自らの四肢に力を集中させていた。


「とくと見るがいい!これが貴様の師であると!!」


高らかな宣言の元、スカーディアはバンシーの群れの中へと疾走した。






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三話目にして未だ本編で主人公の名前を出せていない作者の力不足はほんと申し訳ございません。次回こそは出して見せます。(一応あらすじでは紹介済み)

主人公が子供ながら傲慢な口調なところなど、いろいろ設定は考えていますので気長に待ってもらえたら幸いです。

次回もよろしくお願いします。


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