第10話 スカウト来たんだけど!!?

 そして俺らは来た道を戻り、無事にダンジョンを後にした。


 ──後日知ったことだが、あのダンジョン配信は大いに盛り上がったらしく、レイは過去最高の同時接続数を叩き出していたらしい。いわゆるバズりってヤツだ。


 その後「またダンジョン配信をして欲しい」と多数のリクエストが俺にも来ていたが、一度だけという約束をしていたし、何よりこれ以上危険な目に遭いたくない……ということで、あれ以来俺はダンジョンに近づいていなかった。


 彩花はと言うと、行きたそうにはしていたが「類が行かないなら行かないよ」と、少ししょんぼりした感じで、ダンジョンについての情報を集めていた。


 ……で、そんなある日。俺らの所属しているVTuber事務所、スカイサンライバーから事務所に来いと連絡があって……。


「……あっ」


 ──

 

 某日、スカサン事務所。集まってくれと言われた部屋には、あの激戦を共にした彩花の姿もそこにあって……。


「彩花……じゃなくて、ここではレイって呼んだほうが良いか……レイ。お前も社長に呼ばれたんだよな?」


 眼の前の彩花は、珍しく顔色の悪い表情をしていた。恐らく呼び出された文面から、最悪な事態を想像していたのかもしれない。


「うん……類。これって、ダンジョン配信のことだよね?」


「そらそうだろ……俺ら以外にダンジョン配信なんてやってるライバーいなかったし。今じゃ許可が無いとダンジョンに入れないんだろ?」


 あの日以降、俺らに影響されたのかは分からないが、ダンジョンに入る人が増えていった。だがそこでケガを負ってしまう人もいて……それを見かねた国は、何たら宣言を発出して、ダンジョンに無許可で入ることを禁止するようにしたんだ。


 でも出現したダンジョンを国は全て把握出来ている訳では無いから、ただの注意喚起に留まっているのが現状なんだけど……今ダンジョン配信をしようものなら、炎上は待ったなしだろう。……まぁやってる人いるけど。


 で、そんな流れを作り出した俺らは、言ってしまえば大罪人な訳で……。


「そうなんだ……これは怒られるかもね……?」


「はぁ……。怒られるだけで済めば良いんだけどな……?」


 良くて謹慎、悪けりゃ即クビか……俺が全部悪いって罪を被れば、彩花もまだ活動続けられるかなぁ……なーんてことを考えてると、扉がノックされて。そこから塩沢社長の姿が。


「おー。急に呼び出してごめんね二人とも……」


「あっ、ほっ、本当にすみませんでした!!」


「申し訳ございませんでした!! あの、私が誘ったから、類は着いてきたんです! 悪いのは全部私なんです!!」


 社長が現れるなり、俺達は全力の謝罪を見せた。彩花に至ってはもう凄い角度でお辞儀をしていて。俺も負けじと身体を折り曲げてると……若干、社長は引き気味の声で、俺らに話しかけてきて。


「……おっと。もしかして何か勘違いしてる?」


「えっ……? 俺らを呼び出したのって、ダンジョン配信のことですよね?」


「うん」


「それで勝手にダンジョンに行った俺らに対してペナルティを……」


「ああ、違う違う。俺はそんなことしないし、基本的に配信内容には口出ししないからね」


 ……そこで俺らは顔を見合わせた。だったらどうして呼び出されたんだ……と思ってると、先に彩花が言葉にしていて。


「えっ、じゃあ……?」


 そしたら社長は二枚の封筒を取り出して。


「実は君ら二人にスカウトが届いているんだ。ダンジョン探索者のね」


「類……ダンジョン探索者のスカウト来たんだけど!!?」


「ええ、何それ……?」


 彩花はさっきまでの落ち込みなどすっかり忘れているらしく、興奮した様子で俺の身体をブンブン揺すってくる。いや、何ですぐに受け入れられるんだ? そもそもダンジョン探索者って何だよ……?


 そんな疑問に満ちた表情を読み取ったのか、社長は解説をしてくれて。


「最近ダンジョンが出現したのは話に新しいと思うんだけど、未だそのダンジョンには謎が多いんだ。モンスターとかアイテムとかね。信じられないけど、現に起こっている以上、それを受け入れるしかない」


「……」


「それで今は許可が出た人しか入れなくて、今も自衛隊とかが探索しているらしいんだけど……どうも探索は難航しているみたいなんだよね。噂ではモンスターに銃が効かないとか」


「えっ、じゃあどうしようも無いんじゃ……?」


「そこで目を付けられたのが、君ら魔法の力って訳だ」


「ああー」


 なるほど、やっと分かってきたぞ。要するに未知のモンスターには、未知の力で対抗しようってことだよな。そしてその力を使える俺らに声を掛けたと……。


「それでスカウトの返事はどうする? これを受けたらまた合法的にダンジョンに行けるし、お金も貰えると思うよ?」


「類、行こう!!」


 相変わらず彩花はキラキラした瞳で、俺に訴えかける。断るつもりなど一切無いみたいだ……どうしてお前はそんなに戦闘狂なんだ……?


「いや、俺はもうあんな目に遭いたくないんだけど……というか塩沢さんは良いんですか? 一応VTuberですよ、俺ら」


「まぁー。俺としては行って貰って、VTuberを知らない層も引き込んでくれるとありがたいんだけどね。もちろん、探索者になってもVTuberの活動は続けていいし、ダンジョン配信用の機材も準備はしたいと思っているけどね」


「最高じゃないですか! 類、やろう!!」


 もう一度、彩花は俺を誘ってくる…………あ。これ、拒否権無いな。ドラクエで言う所の『はい』の選択肢選ぶまで、ストーリー進まないやつだこれ。詰みだ。詰みセーブだ…………ああ。もう。どうにでもなれだ……。










「…………はぁ。俺もやればいいんだろ?」


「ふふっ! やったー!!」

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