第13話  死神の大鎌(モルテラ・デスサイス)

 骨の塊が崩れ落ちていきます。

 その背後では未だに轟々と赤黒の炎が燃え盛っていました。


「やりましたよモルテラ様!」


 それはそれとして、私は勝利を我が神に報告いたします。


「……アナタ、本当に人間ですか?」

「やだなぁ、神はモルテラ様じゃないですか!」

「褒めてませんけど、頭の中どうなってるんですか?」

「見ますか?」

「アナタなら本当にやりそうなので遠慮しておきます」

「いやぁ」

「照れるところありました?」


 神の為に働けて、神に労いの言葉までいただける。

 聖女になって良かった……!


「モルテラ様、脱出手段を探しましょう」

「急に真面目になって正論言うのが一番怖いんですけど」

「モルテラ様にも怖いものが!?」

「ええ、主にアナタですっ……!?」


 モルテラ様の、太陽よりも眩しいその紅い瞳が大きく開かれました。

 その気配は悪感として私の身にも。

 背後から感じる、怨恨の声。

 命よりも大切な神を背に、私は振り返ります。


『……ォォオオオオオオオオオオオオッッ!!』


 巨大な骨の残骸からまるで這い上がるように湧き出る黒い影。

 悪意を持って、人を襲う幽霊。

 言葉通りの悪霊ゴースト

 無数の救われなかった魂の集合体が、身体無くとも、その存在を現したのです。


「これは……」


 冷や汗が流れました。

 霊体にはどんな物理攻撃も通用しないからです。

 それなのに向こうの攻撃は呪いとして、対象を蝕みます。

 ズルです。


『ォァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』


 その悲鳴は、まるで赤子のようでした。

 行き場を無くした魂の苦しみ。

 巨大な人型の影、その体表面に浮かぶ無数の苦しむ顔。

 彼らを救うには、聖なる祈りが必要不可欠です。

 ですがそれには時間がかかります。

 私1人ならまだしも、モルテラ様を庇いながらでは――。


「イヤッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッ!!!!!!!! げほっ、げほっ!』


 ――とんでもない声量で、モルテラ様が叫びました。そして咽ました。

 

「も、モルテラ様?」


 振り返ると凄く目を輝かせたモルテラ様が両手を握り締めてバンザイしています。

 とても可愛らしい。


「魂! 沢山の魂ですよ! シャリーネ!! 食べ放題じゃないですかっ!!」

「なんと……!?」


 食べ放題、という表現が正しいのかはわかりませんが確かにそれは盲点でした。

 モルテラ様の目的は100万人の魂を天に送る事。

 その柔らかい下腹部に刻まれた『999996』の文字。つまり空腹値を減らすには、絶好のご馳走なのです。


「やりますよシャリーネ!!」

「……ッ!?」


 モルテラ様が、モルテラ様が……私に手を差し伸べてくれました!

 屈託の無い笑顔で、私へと。

 ああ、アァ、嗚呼っ!


「お任せください!」


 ――歓喜に震えながら、その手を握りました。

 



 炎の中、肌を焦がす怨みの熱が。



 祝福の光、その暖かさに溶けていき。



 一振りの刃となって降臨いたします。



 迷える全ての魂を救済するべく顕現した神器の名は。



「モルテラ・デスサイス」



 彼女の名を、主の名を、我が神の名を、世界に。


『やりますよシャリーネ!』

「神の御心のままに」


 死神の大鎌を振るい、私たちは悪霊救うべき人に向き合いました。

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