第7話  神の名の下に

 彼女の、神モルテラの話を聞いた私は感動で涙を堪えるのに必死でした。


「ひ、ひいぃぃぃぃぃっ!!」


 そしてその神は今現在、私の背に隠れて可愛い悲鳴を上げています。

 

 何故かというとですね。


「女、女だ……」

「へへ、逃がすなよ……!」

「シスターなんて上玉はじめてだぜ!」

「俺ぁ、あの小さい方が良いな。ガキの鳴き声が一番そそるってもんだ!」


 ならず者、とでも呼べば良いでしょうか。

 4人の汚い男たちが得物を構え、私たちを四方から囲んでいるからです。


「な、なななな何ですかアナタ達はぁっ!?」


 神、モルテラ……いえ、モルテラ様が恐怖で震えています。

 こんな事なら一度話を中断させて、近づいてきた彼らを迎撃しておけば良かったと後悔しています。


 けど、神のお言葉を、神の世界のお話を聞けるのならこのような有象無象は無視するべきでしょう。

 私はそうしました。


「嬢ちゃんたち、悪く思うなよ……せめて気持ち良くしてやっからよ」

「気持ち悪いなおめぇっ!」

「ヒャハハッ!」

「ヒヒヒッ!」


「うるさっ」


 耳に入る、汚い笑いが木霊します。

 

「あぁっ!? 生意気言ってんじゃねぇぞ!」

「済ました顔しやがって!」

「その修道服ビリビリに引き裂いてやろうか!」

「俺ぁ、子供が良い!」


「ぴぃっ!?」


 耳は良いようで、どうやら怒らせてしまいました。

 いけない、モルテラ様が怯えていらっしゃいます。


「ご安心を、モルテラ様」


 死神と言っていた気もしますが、神は神です。

 それも初めて私に神託を下さった、いわば私にとっての唯一神。


 護るべき方なのだと、私は完全に理解しました。


「あ、安心できませんよこんな状況!」


 大変です、神は錯乱しています。

 その姿を見て、男たちは愉快そうに汚く笑っていました。


「……チッ」

「舌打ちしましたか今!? 誰のせいでこうなったと思ってるんですか!?」


 男たちに向けたものをモルテラ様に誤解されてしまいました。

 

 話を整理するに、私が悪いのは認めます。

 私があの時お父さまの魂を手に入れてさえいれば、モルテラ様はこうして苦労する事も無かったのですから。


「せ、責任とってどうにかしてくださいよ! 今の私、無力なんですからぁ!!」


「――――」



 どう、にか?

 危ない。

 思考が、呼吸が、止まってしまいました。


「私が、ですか?」


 声が震える。

 顔が、にやける。


「そうです聖女なんでしょう!? アナタが何とかしてくださいよシャリーネ!!」




 ――神託が、下った。




「お前ら! 何をゴチャゴギャァッ!?」

「神の名の下に」


 正面にいた男の顔面にモーニングスターを投げつけました。

 鈍い音を立てて、先端部にあるトゲ付きの鉄球が顔にめり込みます。


「んなっ!?」

「テメェッ!?」

「女ァッ!!」


 男が倒れるのを見て、左右と背後から男たちが襲いかかります。

 右が手斧、左が短剣、後ろが長槍。


「不敬者が」


 私は吐き捨ててから、怯えるモルテラ様の方を抱き。


「神罰です!」


 背後の男に向かって、全力でモルテラ様を投げました。


「なんでぇぇぇっ!?」

「うぉっ!? へへ、やわらけぇ! 甘いミルクの匂いだぁ!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」


 男に抱きとめられたモルテラ様が全力で拒絶しています。

 な、何て可愛そうなのでしょう……!


「……酷い事を」

「は? テメェが勝手にぎぃぃぃぃっ!?」


 3人目。

 向かってくる左の男の膝に横からメイスを叩きつけました。

 砕ける音と一緒に姿勢を崩した男が地面に倒れた後、胸にもう片方のメイスを打ち込みます。

 動かなくなりました。


「許さねぇぇっ!!」


 男が手斧を私に振り下ろし。


「許す?」

「んなっ!?」


 私は右腕のガントレットでそれを防ぎました。


「許すのは、神です」

「ガァッ!?」


 左フック。

 喧嘩は顎を狙えと、ニニミお姉様の教えが役に立ちます。

 手斧を落とし、男が膝をついたので。


「3人目」


 その後頭部を、メイスで振り抜きました。


「さあ、後は貴方だけですか」

「く、来るなぁ!!」

「た、助けてくださぁいっ!!」


 最後の男はモルテラ様を抱きかかえ叫びます。


「モルテラ様を保護していただきありがとうございます。このまま逃げ帰るのなら不問といたしますが、いかがでしょう?」

「ふざけんな! ようやく俺好みの細いガキを手に入れ」

「なるほど」


 聞くに堪えない戯言でした。

 腹が立った瞬間、何やら体のそこから力が湧いてきたのでそれに身を任せたら、とんでもないスピードで男の背後に回り込めましたではありませんか。


 もしや、これが話に出ていた加護というもの。

 もしくは、モルテラ様を想う力。

 

 クッ、あの時もっとその気持ちが私にあればお父様を……!


「救えませんね」

「ァ゛ア゛ッ゛!?」

「ひああっ!?」


 背後から男の股間を、思いっきり鉄靴で蹴り上げると言葉にならない断末魔を上げて膝をつきます。

 その際、長槍が落ちてモルテラ様も自由の身になり転びながら瞬時に男から離れていきました。


「私も、貴方も」

「グ、ガァ゛……ッ゛!?」


 膝をついた男の首にムチを巻きつけ、締め上げます。

 前に倒れようとする男の身体。

 ムチによって引かれる首。

 その背中を押す私の足。


 しばらくして、ムチを剥がそうとしていた男の手がダランと垂れました。

 男の首からムチを外すと、力なくその巨体が地面に倒れます。


「あわ、あわわ……あわわわわわわわわ……」


 その奥では、モルテラ様が腰を抜かして身体を震わせていました。


「モルテラ様、もう安心ですよ」

「アナタが一番危険ですけど!?」


 そんなに声を荒げるなんて……おいたわしや、男に抱かれて怖かったのでしょう。

 よしよし。

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