食欲の秋

「あ、飛び入り参加可能のバーベキューだって!」

「珍しいね。食材とかも売ってるって」


町を散策しながらお昼ご飯を食べる場所を探していると、バーベキューをやれる場所を見つけた。

食材を持ち込まなくても、そこに食材が売っているから、飛び入りで出来るといういいスポットだった。

それなりに人も少なく、かなり穴場となっていた。


「じゃあ、僕色々道具とか買ってくるね」

「うん!わかった~」


僕は伊豆奈を残し、炭や着火剤を買ってくることにした。

…前までだと、きっと僕は伊豆奈を一緒に連れて行っただろう。信頼できるというのは、いいことだ。

辺りにはチャラいやつが何人かいた。できるだけ早く戻ろう。



バーベキューセットを早く貰い、少し急ぎ目に向かった。一人でソワソワしながら待つ伊豆奈を見て少し安心する。それから、さらに小走りで向かった。


「お待たせ」

「あ、うん!楽しみ!」

「うん。僕も」


手渡された炭の中に着火方法が書いてあり、その手順通りに炭を組み、火をつけた。

燃やした着火剤から炭へと移り、やがてすべての炭が燃えだした。

上に網を乗せ、温めている間、僕らは少しだけいちゃいちゃしていた。

何ら不思議はない。ただ肩を寄せ合ったり、ハグしたりしただけだ。


「もうそろそろじゃない?侑斗くん」

「うん。じゃあ、お肉焼こっか」

「お肉焼くのは私やる!」


トングを持ち、お肉を数枚金網に並べて、真剣に向き合っていた。もちろん、そんな伊豆奈が可愛くないわけなく。僕はその横顔をスマホにおさめた。


「え?ちょ、ちょっと!撮るなら言ってよ!」

「あはは!ごめんごめん。でも、可愛いかったからもっと撮っちゃう」

「むぅ~!じゃあ私も撮ってやる!」


そう言いながらスマホのカメラを構え、一枚写真を撮った。

寸でで顔を隠したから、少しだけ顔が映っただけで終わった。


「くぅ~!連射してやる!」


と言いながらパシャパシャと写真を撮り続ける伊豆奈をパシャり。

撮るや否や逃げ出してみる。


「あー!待てー!」

「待たないよ!はははっ!」


それからも、肉を食べている間や、野菜を焼いてるとき。お互いの無防備なところを写真におさめようとし続けた。

それは、至福では言い表せられないほどの多幸感に包まれるような感覚がし、とにかく、幸せすぎる時間だった。

追加で買った焼きそばも食べ終わり、僕らは少し休憩がてら机に座って買ってきたアイスを食べていた。ストロベリーという酸味が効いているフレーバーを選んだのだが、もしかしてイチゴを入れ忘れたのだろうか?


「あーん」

「?」


ふと、伊豆奈が大きく口を開けてそう言った。


「いちご一口頂戴?」

「…はい」

「ありがと!」


そう言ってスプーンで掬った分をパクリと食べた。おいしそうな顔をする伊豆奈の可愛い顔に思わず顔を少し逸らしてしまった。


「ん?どうしたの?もしかして、あんまり食べられたくなかった?」

「いや…可愛すぎて、つい」

「ふぇ!?あ、そ、そう?よかった…」


暫し、赤らめた時間が過ぎ、伊豆奈が思いついたようにスプーンでアイスを掬い、僕に差し出した。


「こ、今度はこっち。あーん」

「あ、あーむっ…」

「ど、どう?」


伊豆奈が選んだバニラ味。バニラは、想像していたよりも甘かった。

さて、次は何をしようか。そんな会話をしながら、僕らは親しんだ自分の家へと帰っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

血に濡れた愛 時雨悟はち @satohati

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ