勘違いと危機

そんな事件があった翌週。朝いつも通り伊豆奈と登校していると後ろから


「あっ、あの!」


と,誰かに声をかけられた。

振り向いてみると,そこにはあの日の女の子が僕らと同じ制服を着て立っていた。


「ああ。君はあの時の…」

「はい!あの、私、一年の新谷香苗って言います!」

「うん。そっ…か。よろしくね」


返答に困りながらもそう返事すると、香苗はパァーっと明るくなり


「は、はいっ!」


と元気よく返事をしてそのまま走って学校へと向かってしまった。


「な、なんか、不思議な子だね…」

「うん。そうだったね」


少し驚きながらも、僕らもまた、学校へと足を運んだ。



「あっ、あの!侑斗、先輩は…」


昼休憩。ちょうど伊豆奈の元へと行こうとしていると、僕を指名する声が聞こえた。

それは、朝にもきいたあの子。新谷香苗の声だった。


「うん。いるよ」

「あの!お、弁当…作ってきましたので食べてくりゃさい!」


甘く噛みながらお弁当を差し出してきた彼女に、僕は申し訳なく思いながら


「えっと…僕、伊豆奈のお弁当があるからさ。ごめんね」


と言ってその場を後にした。

少し進んで振り返ってみると、彼女はお弁当を手に呆然と立ち尽くしていた。



「…ってことがあって遅れたんだ。もっといい断り方とかあったのかなぁ」

「ん〜。私は、変にはぐらかされるよりかは、そうやってキッパリと言ってもらった方が諦めはつくけどね」


解放されている屋上で僕と伊豆奈の2人。2人並んでお弁当を食べていた。

遅れた理由を伝えたところ、伊豆奈はいぶかしげな顔をして「デレデレしてないでしょうね?」と疑ってきたので、僕は強く否定しておいた。

そのあとも、香苗は幾度となく俺と伊豆奈が二人でいない時を狙ってか、必ず一人の時にやってきた。


「最近、香苗さんとずっといない?」


と、さすがに伊豆奈にも怪しまれるようになってしまった。

その度に「僕から話しかけているわけではない」とずっと言ってきてはいるが、さすがにそろそろ限界が来そうだ。


…仕方ない。ちょっと気の毒だけど、仕方がない。



夜。僕は香苗の塾の帰りを調べ、その時間になるまで塾の前で出待ちをしていた。


「…あれ?侑斗先輩?」

「話があるんだ。ちょっと来てくれる?」


僕は彼女を連れ、夜の公園に向かった。


「えっと、そのっ、あのっ!」


何を勘違いしてるのか。彼女はもじもじし始めた。


「香苗」

「ひゃい!」


僕は彼女に近づいた。

彼女はそう言って、目をキュッと瞑った。

僕も腹をくくり、ポッケに手を突っ込み、そのまま。


「…え」


スタンガンを彼女の体に押し当てた。

ガクッと倒れたのを確認し、いつも通り彼らに運ばせた。



「…うぅ」

「あ、目覚めた?」

「ひぃ!!!!」


彼女がタイミング悪く目を覚ましてしまった。

彼女が目を覚ますその瞬間。僕は彼女の首をでっかいはさみで切り落そうとしていた。


「なるべく叫びが聞こえないようにしたかったんだけどね…仕方ない」

「いやっ!やめふごご…」


仕方なく。彼女の口にタオルを含ませ、ガムテープで塞いだ。


「別にね。僕だって君のことを殺すつもりは毛頭ないんだよ」

「ふがが!」

「でもさ。君がしつこくしつこく毎日毎日会いに来るから。伊豆奈に嫌われちゃったよ。さすがに、僕も怒っちゃった」

「ふぐが…ふぐぅ…」


彼女が泣き出した。なんなら、下のほうはすでに大洪水になっていた。


「だからさ。僕も、伊豆奈のために頑張らないといけないからさ。ごめんね」


ひとかけらだけの慈悲から一応謝っておく。

僕は彼女の背に回り、はさみの刃の間に首を置いた。


「んがが!」

「そうそう。これも言っておかないと」

「んぐぐ!」


僕は、彼女に最大限の敬意を払い、耳元で感謝を述べた。


「君があのストーカーのヘイト買ってくれたおかげで、伊豆奈に危険が及ばなかったよ。ありがとね」

「んん…」


ぶっつりと真っ二つに切り落とした。

どばどばと噴水を作り上げる胴の先。目から生気が抜け、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった頭があった。

魂が抜けた肉塊を見て。それが先ほどまでは脅威になっていたのだと考えると、思わず


「…へへ」


安堵から、笑いが漏れてしまった。

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