努力

救世主A

朝一の授業というのは、中々朝の眠気が冷めないもので。


「なあ」

「なんだ?」

「昨日のテレビ見たか?」

「お前、そんなの見てる暇あるなら勉強してろ」


こうして授業中なのも構わず眠気を覚ますために会話を交わす。


「なんだよ、冷めてんなぁ」

「そこ、次喋ったら内心も内定も落とすからな〜」


そんな地獄のような脅しに僕たちは黙りこくった。



「先輩!テストやばいです!」

「…そんな嬉々として言われても困るんだけど」


帰り道、伊豆奈は急にそう言った。

暖かいと感じていた日差しもそろそろ暑さを帯びてきた。夏服姿の伊豆奈の可愛さを考えようとしたけど、今すぐにでも倒れてしまいそうだからやめておいた。


「うわぁぁ…せんぱぁい、助けてくりゃさいぃ…」

「今までそんなことなかったのに急にどうしたんだよ」

「…そ、そりゃ、あんなことがあったら…覚えたことも忘れますよ…」


まあ、確かにな。あんなことがあったらさすがの僕でも何もかも忘れるだろう。


「お願いですぅ!」

「はあ…仕方ないな」


こうして、この日から毎日2時間の勉強会が開かれることになった。



「…違う。違う。違う…」


夜の繁華街。僕はとある選別をしていた。

他の人から見たらばかばかしいことかもしれないが、僕にとっては風呂に入ることと同じように必要不可欠だった。

にしても、ここら辺にはチャラそうなやつがうじゃうじゃといる。まあ、あんな奴らなら構うだけ無駄だろうけれども。


「ねえいいじゃんよ~。行こ?ね?」

「本当…急いでるんで…」


一人の周りにいるやつらと一見変わらないチャラ男がやってきた。


「…当たり」


その一人に、僕は標準を合わせた。理由は簡単。

伊豆奈が好きなタイプにかなり近いやつであるからだ。


「危険分子は、やらないと。伊豆奈も苦しいしねぇ…へへ」


僕はそうして、彼が狙っている女の前に出て


「おにーさん。しつこいよ。自覚持ちな」


伊豆奈のために、僕は仕方なく優しい救世主Aを演じることにした。



「…で?ここに連れてきた理由は?」

「特にないですよ」

「…特にない、ねぇ…」


彼を彼女から離し、彼を人気のない路地まで連れてきた。


「…本当は、もう気付いてんだろ」

「バレました?」


そう返すと、ぞろぞろとスーツ姿の大人たちがやってきた。


「さて。君には一つだけ生きるための選択肢がある。大人しく身柄を拘束されることだ」


彼らはそう言い、まるで僕を人と見なしていないかのように、躊躇なく銃口をこちらに寄こした。


そう。罠にかけたつもりだったんだが…。いつの間にか僕が罠にかかっていた。


「まさか、本当にこんな格好してたら釣れるとは…」

「ま、僕の彼女の好きな雰囲気だったんでね」

「…やっぱ、あれは本当だったんだな。全く。都市伝説が本当なんてありえねぇだろ」


何のことか。僕は心当たりがあった。

なぜなら、その噂を僕は彼女から聞いたんだから。


は」

「…」


愛を永遠にしたいがため、周りの男を殺す殺人鬼の噂。そいつは、クール系の服装をしているやつを主に狙っているという。

こんな甚だしい勘違いが、こうして噂として広がっていた。


「…殺人?」

「ああ。お前のやっていることは殺人だ」

「やだなぁ…僕は、ただ悪い虫を駆除してるだけなのに…」

「よく言えたな。人殺しはどうだった?楽しかったか?」


引き金に掛けた指に力を込めているのか、その腕がかたかたと震えていた。


「んー…血しぶきは、かなりきつかったからなぁ…でも、最近は血も出さずに殺す方法を学んだし。かなり楽にはなったかな」

「…お前、今何を考えてる?」

「え?そーだな…」


彼の後ろを指さす。それにつられ、彼は後ろを振り返り…。


銃を自信と希望と一緒に落とした。

その光景に僕はフッと笑い


「伊豆奈の事と、君の死体の隠し場所かな」


拾った拳銃はかなりいい状態に整備されており、僕にはノーダメージで引き金を引くことが出来た。

転がっている肉塊たちを眺めながら


「…やっぱ、血は嫌いだな。生臭いし」


そう言って、友人の車に詰め込んだ。


「この手袋も、捨てよっかな」


この数か月愛用していた真っ黒の手袋と一緒に。



「伊豆奈の敵は僕の敵。伊豆奈のタイプは、僕ただ一人」


血がべっとりと付いている顔を拭いながらそう呟いた。

さて、だいぶ時間を食ってしまった。今日のノルマは後5人ぐらいかな。なんてことを考えながら繁華街に戻った。

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