最後のページがない

嶋田ちか

どこにいった?

「あれ、最後のページが破れてる…」


時刻は深夜1時。

今日古本屋で手に入れた本を早速読んでいるところだった。


だが、何度見ても最後の1ページだけ存在しない。


「結構いい値段したのになー、不良品だったか。損したわ」


何店舗も巡ってやっと見つけた本ということもあって、同じものが簡単に手に入るとは思えない。


内容も最後の1ページ以外は読めるのでオチはだいたい分かっている。


とはいえ、だ。

物語の締めの1文には魂がこもってるものだ。


長く綴ってきた自分の物語、最後の文章には誰だって力が入るだろう。


そこが読めないなんて。


1割、いや2,3割は損した気分だ。


いやそもそも古本屋に戻ったところで見つかるのか?

もしかしたら最初からなかった可能性もあるし、店に展示されていた時に事故で紛失してしまったというのも十分ありえる話だ。


「どうしようか、」


ぽつりと呟く。


ちらり、とカレンダーを見ると明日の予定は午後からだった。


朝ダメもとでちょっと寄ってくか、そう決めて部屋の電気を消した。


翌朝。


雲が厚くてどんよりとした不吉な天気だった。


1度家を出たものの、あまりにも天気が悪いので引き返す。

折り畳み傘をバッグに詰めて再度家を出た。


古本屋は自宅からそう遠くない位置にあった。


本を並べている店員に、声をかけようとしたが既に先客がいた。


高校生だろうか、学ランを着た男の子が店員と話していた。


「あーすみません、じゃあちょっと倉庫から同じの取ってくるのでちょっと事務所の椅子で待っててもらえますか。」


店員はそう言うと、学生を店の奥の方の事務所に案内して自分はさらに奥の倉庫に向かったようだった。


店内からは事務所や倉庫の様子が見えにくい造りになっているので、店員がこちらに気づくことはなかった。


そこから10分ほどだろうか、店の本を見ながら待っていたが、店員が戻る気配はない。


いつの間にか学生もいない。


そんな急ぎでもないし、と諦めて家に帰ることにした。




その夜。


家族と食事をしている時、テレビで放送されていたニュースに耳を疑った。


「本日、○県○市で殺人と死体遺棄の疑いで、36歳の男が逮捕されました。


逮捕されたのは○市在住の神尾 亮 容疑者です。」


「神尾容疑者は古本屋に勤務しており、被害者を事務所へ誘導した後、人気がなくなったタイミングで殺害。


被害者が身につけていた携帯が、古本屋の近所である空き地で見つかったことから事件の発覚に繋がりました。」


「調べに対し神尾容疑者は、「本屋によく来ている人の中から気に入った人を選んで殺した。」と述べているとの事。


容疑者は、被害者が本を購入した後、何らかの方法で再度店に呼び出し犯行に及んだとみられています。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後のページがない 嶋田ちか @shimaenagon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ