バックハグされるとき

鳥辺野九

本屋での怖い話


 これは本屋での怖い話です。


 本屋ってさ、こう本棚がかなり高くまで迫り上がってるよね。私ってほらあんまり背が高くないでしょ。だから一番上の棚の本って手が届かないのよ。


 最近の本屋さんは開放的でオッシャレーな空間演出してて、本棚も背が低くて痒いトコロに手が届くってわけでいいよね。


 でもね、本屋女子として憧れのシチュエーションってあるじゃない。


 あぁん、あの高いトコロの本に手が届かないっ。そこへ寡黙な青年がやってくるわけよ。背中越しに無言で手を伸ばして、私が欲しい本をさりげなく取ってくれるの。


 あぁん、さすが高身長高学歴高収入高性能構想三年好青年っ! K多め? いいの。本屋女子憧れシチュ第二位『高いトコロの本を取ってくれると思わせといてのバックハグ』なわけよ。


 ちなみに憧れシチュ第一位は『おんなじ本におんなじタイミングで手を伸ばして「「あっ」」って同時に頬を染める』。ねーよ。どんだけ視界狭いのよ。


 でね、こないだついに私にもそんなシチュエーションがやって来たわけよ。あの高いトコロのBL小説に手が届かないって背伸びしていたら、背後に人の気配。


 近っ。近過ぎるの。ぴったり身体密着させるほど近くて、でも触れ合わない。私の顔のそばからぬっと腕が伸びて、そのBL小説取ってくれたの。


 私は直感的に理解できた。こいつはBL小説好きの高身長じゃないって。だって人の気配びんびんなのに身体は触れ合わないし、腕しか見えないんだもん。まともじゃありえない。


 バックハグ状態で恐る恐る背後を振り返ろうとしたら……。


「後ろじゃねえよ。こっちだよ」


 そいつは前にいた。取ってくれたBL小説のあった棚に、BLとBLの隙間から私を睨む二つの目が縦に並んでいたの。


 いろんなタイプの本屋さんがあるけど、背の高い本棚は背後も目の前も気を付けた方がいいよって話。


 ホントかウソか、あなたも体験すればわかります。

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