第35話 ジェームズ・ディーン

 自分が天才ではない、と気づいたのは、いつの日だったろう。ACM劇場の上手か、下手か。


 ぐるぐると歩き回り、肥大した自意識は、やがて、空虚に円を描き、やがて、失速する。


 友人たちが、後からこの世界に入ってきたものたちが、簡単にこちらの背を追い越していき、ひるがえって、ワクチンを打ち、ワクチンの偉大さを喧伝し、大きくなっていく。


 我々の先輩が、後天性免疫不全、通称AIDSで亡くなり、なおかつ、血友病でかつ、死因が後天性免疫不全のものは、非加熱血液製剤によって亡くなった。


 日本は、その危険性を知りながら・国民たちに、非加熱血液製剤の良さをつたえつづけ、結果的に、被害者は増え続けた。


 サリマイドも、だ。

 自分の薄い知識、稽古場と家を往復する日々の中でできた小さな隙間時間に、生まれた時間で、日本という国は、薬剤の危険を知りながら、国民に使わせることを繰り返してきたことを知った。


 その繰り返しでもうけたため、今度は1年ではなく、10年後まで利用を延長し、10年間に被害者を増やすことでもうけるのだと、私は気づいた。


 おそらく、私は死ぬか、殺されるか、糾弾されるか、のどれかで、ワクチンの副作用で亡くなった人間を、とむらう気など、金のある芸能人にはないのだろう、と気づいた。


 彼らは、東京ドームの前で、先人たちに、大東亜戦争で散った英霊たちに手を合わせることなく、ダルビッシュを応援する。


 つかさんや、井上ひさしや、蜷川さんに強制的に、同じ時代を走った私には、それが理解に苦しむ言動で、二言目には、戦争、戦争責任、学生運動、が、彼らの口癖で、強要を受けた。


 性的接待でなく、強制的に、この平和が、死体によって築かれたことを、この下には学生運動で亡くなった、散って行った魂が、演劇部を支えているのだと。


 気がつけば全員亡くなり、ただ、私は、彼ら亡霊に囚われつづけている。


 時代遅れの、ロートル、老兵、見た目は若いが、ぼろぼろの、戦場帰りの。

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