第13話 『障害者B型支援施設』に家具を納める
出来上がった家具を障害者施設に納品しに行く事になった。
納品先でも師匠の指導法は変わらない。
『もっと前に出せ!』
『何やっているんだ』
『ここはどうしたらいいのでしょうか』
『うるさい!』
『早くしろ!』怒声と罵声が飛び交う。
なんとか納品も終わり、師匠の後ろで打ち合わせに耳を澄ませているとスタッフの女性から『あれアベッシじゃない?』懐かしいあだ名が耳に飛び込んできた。
えっと…考えている間に『私、真理子、覚えてる?』『覚えてるよ。』久しぶりの再会で場も和み打ち合わせが終り師匠と別れ、私も帰ろうとした時、また真理子さんから声を掛けられた。白井も一緒に働いているんだよ。
『えーそうなんだぁ。』白井とは親友とまでは言えないが人柄もよく友達に違いない友人だった。『顔見たいなあ』『呼んでくるよ』明るい声、応対の良さ、姿勢、私にはないものばかり、もう子供ではない大人の後ろ姿が優しくてかっこ良かった。
『あれ!久しぶり』なんだろう、人の良さが全面に出ている話し方。独特の調子白石『久しぶりー元気だった?』『仙台にいたんだー。』
ほんの数分近況を交わしてまたお邪魔するからと別れた。
帰ってから師匠に中学校同級生が二人働いていた事を伝えた。それから尋問のように聞かれた事にわかる範囲で応えた。『…という事は納品先の施設で小中学の同級生の女性スタッフの真理子さんと中学の同級生、白石さんが働いていたんだな』『何かこれからあるかもしれないな』師匠は意味深な言葉を付け加えた。
その日は意図していなかった旧友との再会それだけで元気が出た。
その後何かにつけて、その障害者施設に伺うように申し付かる事が増えていった。
『私は今仕事をしている障害者施設と積極的に関わる気持ちはないが、もし君が商品開発で要望を聞き出して仕事になるようだったら工房は協力するよ』と師匠はいった。それは私を試しているのか、善意で言っているのか分からなかったが、まとめられるだけの器量がないと思い進める事は出来なかった。
年末の嵐のような忙しさから解放され、年が明けた。結局1カ月半で一日の休暇を貰い、残業づけの年末だった。作られた家具を納品先へ納める。
その後も事あるごと、障害者施設に来ていた。納期が遅れている事もあるのだろうか。手直しが進まずに師匠自ら顔を出し辛いからだろうか。
私に経験を積ませたいからだろうか。愛情だろうか。
今日は手直しの工事をしていた。木の狂いで引き戸が綺麗に閉まらなく鉋を使って隙間が出ないように調整していた。納めた収納棚の二枚ほど削りすぎて調整の出来ないまでになった。ちょうどその時師匠が打ち合わせで施設を訪れた。『すみません。調整でお聞きしたい事があるのですが…』調整出来ないと言った引き戸を見て師匠は怒りモード1『なんで両方削っているんだ!』『すみません。間違ってしまい数回削ってしまいました』『見て貰えばわかると思います。0.5ミリも削ってません。』『ふざけるな。削らなければ治まっていたじゃないか』怒りモードが段々ヒートアップしてくる。『いや無理だと…』『両方削りやがって』捨て台詞を言葉にして師匠は帰っていった。
続きの仕事をしていると『アベさんコンニチハ』『腹筋デキル?腹筋得意?』後ろから苗字を呼ばれた気がした。『えっ何で苗字知ってるの?』話しかけてみた。『アベさん腹筋デキル?腹筋得意?』いつも通りのADHD聞かれた事には答えずに自分の話を続けた。
『苗字覚えてくれてありがとう。』自分の苗字を覚え、声をかけてくれた障害者に目頭が熱くなった。彼の名前を聞き、もっと仲良くなりたいと思いながら残る仕事を進めた。また帰る時に苗字で呼ばれた。
『アベさん、さようなら明日来る?』『…』あれ名前なんだっけ?『明日、わからないなあ、ゴメンおじさん名前忘れちゃった』私には記憶力は少ない。
『谷口君、名前覚えてくれてありがとう。さようなら。またね』私は障害者、健常者何て関係ないなそんな事を思った。
自分で自覚している以上仕事のスキルアップなどほど遠く、師匠も以前話していた『出来ないんだから仕方がないよな、何回でも怒ってやるからな。』の言葉が行動に変わって年末から拳が飛んでくるようになっていた。
2月はほとんど毎日『辞めろ』と『いつまで同じことを言わせるんだ。』と言われる1カ月を過ごした。
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