第10話  支援の扉『障害者準備支援室』

 自粛要請の正月が明け、仙台駅前から徒歩五分のオフィスビルの中にある『障害者準備支援室』と名づけられたところを訪れた。


 大きめの重い扉を開けると、オフィス空間、とその他、パテーションに仕切られミーティングスペース、個別相談室、作業台など狭苦しくなく配置された空間に四人ほどのスタッフが見えた。


『お世話になります。初めまして』名前を言うと、すぐに検温と消毒液。体調チェック表の記入を促された。


 女性の40歳に差し掛かるくらいだろうか私が名前をいうと手際よく案内され、施設利用のオリエンテーションに移っていった。


 30分程度で終わると、室長さんからカウンセリングと今後のカリキュラム構成についての聞き取りが行われた。


 就職実務トレーニングの他にメンタルケアーとして会話、模擬会議、ストレスケア、模擬面接など幅広い内容の講座が用意されていた。

 

 自分に必要と思われる項目を選び受けるように予定を入れた。

 私が利用し始めた時はコロナ禍真っ只中という事で施設利用者も半分の5名に制限されており、なんだか社会全体が得体の知れないベールのようなものに覆われたように交流する事、社交的に接する事さえもハードルを感じる空気感になっていた。


 そんな時、いち早く声をかけてくれた。若者がいた。『佐伯です。おはようございます。よろしくお願いします。』笑顔が似合う、不器用そうな感じが逆に好感が持てた。『今日からなんだけど、こちらこそよろしくお願いします。』


 昔は簡単に出せた言葉もどうすれば明るく話せるんだろうなんて考えながら、少し振り絞るように言葉を声に変えた。 


 ここにいる人は、みんな訳ありの人たちなんだと少し色眼鏡を掛けたように観察し、そう思うと一人じゃないんだと安心した。



 『午後は問題解決の講座をします。』


 グループディスカッションだ。

 最初はリラックスする為にゲームをしたりしながら、話す練習をする。

 そこに入る前にスタッフは前置きを話した。


 『いろいろな理由で話せない、参加したくない人は見学、途中退場して大丈夫。あと、他の人の意見を否定したりしないで最後まで聞きましょう。』と話し講座が始まった。


 ムードメーカーは私に真っ先に話してくれた


 佐伯君だ。まったりとした喋り方だがそれでいて元気がいい。口にする冗談がわざとなのか天然なのかその曖昧さがまたそれがおかしかった。

スタッフと佐伯君がゲームを盛り上げ私も子供に戻ったように楽しむ努力、表現する事を思い出すようにして参加した。


 5人の利用者それぞれの言葉の中から障害が見え隠れしているのが分かった。相手に自分を知ってほしいという事もあるだろう。震える言葉の後ろには勇気や正直さ、言葉に出来ない弱さなど、ただ聞くだけで言葉以外の何かが伝わってくるのが分かった。


 ゲームが終わり本題の問題解決の内容に入った。


 『今日は【人前で話すと緊張して上手く話せない】のテーマに対してみんなで意見を出し合っていきましょう。』


 

良くありがちな職場での出来事をテーマに問題として挙げられた。状況設定を細かく決めみんなで自由に意見を出し合うブレーンストーミング形式で進められた。

それぞれ五人の参加者が意見を出し合った。


●好きな事をする 


●緊張していますと先に伝えてしまう


●イメージトレーニング


●サングラスをする


 など解決案を参加者が意見を出し合ってその中から質問者が今後取り入れてみたい事を選んで講座は終了した。


 その他多彩な講座と作業支援により自己理解が深まった。

 

 また、ここでの支援カリキュラムによって、毎日何をしたらいいのか迷うことなく、コーチングスタッフが常駐し気軽に相談しながら社会復帰を目指すことが出来た。数週間の模擬就職体験により、私は組み立て作業が得意だという事。事務作業はPC、実務作業ともにミスが出やすい。仕分けは複雑になると極端に遅くミスが増える事が多い事がわかった。

 

 短期で行う支援カリキュラムは2ヶ月間という期限が定まっていた。そろそろ半分過ぎようとする頃、室長との面談があり、私に合いそうな求人が来ているという事で受けてみないかとの話が来た。

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