第9話  無職。再び

 前回にも増して早く失業給付の手続き、支援センターの職業適性検査の申し込みをした。


 こういう仕事のスピードは着実に早くなっている。


 ハローワークの新井さんに再度担当をお願いし、直ぐに障害者職業センターに申し込みをした。相変わらず忙しいようで二週間後、三週間後という約束が当たり前で、どうしても今後の予約が先の話になってしまう。


 就職の仕方について妻と話し合って今回の就活は障害者を開示して働く事に決めた。

 前回よりも貯えが少なかった私はハローワークの生活相談の窓口を頼りそこから行政に相談する事を勧められ幾分の安心感を得た。

 人に話していく事で不要な悩みが解決されていく事が分かって来た。収入についての不安はこれで随分と楽になった。


 職業適性検査を受けてみると、私は手腕作業が向いているらしい。沢山ある項目の内で唯一、人よりも適性値が高いものがそれだった。担当の方に『他のは向いていない仕事多いですね。』『そう見えますがあくまでも目安です。阿部さん、実は適性職業が表れない人も多いんです。』そうか、私は恵まれている方なんだと思った。


 そういえば、こういうテストをADHDの診断を受ける前に経験したことを思い出した。



 『あぁ、俺ってこんなものなんだな。』

 現実を知った上でこれからが大切。自分に言い聞かせた。



 今後について、『阿部さんに話しておきましょう。ナビゲーションブックを作りましょう。私たちもサポートしながら作りますから、何書くかこれにまとめてきて下さい。』

 マンツーマンならぬマンツーツーマン。大人二人がかりで相手してくれるらしい。

仕事を辞めて二カ月半が過ぎてやっとナビゲーションブックが出来た。



私が苦手な事。


・大声で叱られたりすると萎縮してしまい、何を話してよいか分からなくなったり、 

 言葉使いがぎこちなくなる事があります。


・持ち物の置き忘れが多い


・同時進行で複数の作業をこなしたり、そのつど優先順位が変わるような仕事は苦手です。

 

 こんな感じで苦手な事を書いて、自助努力や工夫、周囲の方に配慮して戴きたい事を用紙にまとめ履歴書などに添付するのが障害を開示しての就職活動ではよく使われる方法だそうだ。あまり項目が多すぎると雇用主の印象に関わるので調整した。


 今度はハローワーク相談員と障害者職業センターの担当を交えた就活面談での連携について話し合う場を設けられた。書類に目を通し方向性を見極める。終始淡々と進められ、私の気持ちに寄り添う形で今後について決まっていった。


 暮れが迫る中、給付金の認定日にハローワークに訪れ新井さんと面談した。

 『この前はお世話様。もう12月半ばだから求人応募は来年にしましょう。』



 新井さんはこの前見せたナビゲーションブックの事にふれた。どうやら現在の一般求人での企業側からはナビゲーションブックはあまり歓迎されないらしい。


その後も新井さんは話を続けた。

『そういえばセンターから職業支援カリキュラムの話とか聞いてない?』話を聞くと通い型のカリキュラムになっており、疑似就職しながら、実際に事務、物品管理や軽作業を行いながら得意、不得意をしり、スタッフから改善のアドバイスを頂ける場所があるとの話を聞いた。


 そこは支援員の配置が整っており、一日を通しての活動の為、気軽に相談できる環境にあるという。

 『そんな所あるんですか。』早速、問い合わせ詳しい話を聞き年明け早々から利用する事になった。


 コロナ禍元年の年末年始、世の中は得体のしれないウイルスによって晴れない日々が続いていた。忘年会など何処へやら、私も例年にない静かな年越しを迎えた。

 年が明け、日本中いや世界中のほとんどの人がコロナウウイルスに対して治まってほしいと願ったに違いない。

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