第4話  変わらない日々。 そして・・・

 以前と変わらない日々に戻り、毎日の仕事はミスだらけ、打ち合わせの内容や流れを記憶しておけない状況は診断の結果告げられた障害名がその都度頭によぎるようになった。


 仕事中作業の順番ややり方が分からなくなったりする事に加え不安や過度の叱責が加わる事で悪い連鎖反応が生まれ、頭が知らぬ間に錯乱状態となって来る事が多い。

そこに問題があると分かっていても解消できないままに仕事を続けていると更に失敗して、また叱られる。


 結果、悪循環により同僚からは仕事の出来ない人、トラブルメーカー、足手まといとして見られ、改善できるすべを持てないままに、日々を過ごし障害が分かっても生活は何も変わらなかった。


 当時の私は、一日中叱られる事も多く、ただ謝る事しかできなくて、分からなくなってしまった時にどうやって聴き直したり、助けを求めたらよいか迷走していった。そんな状況下において同僚たちとそれ以上の良好な関係を作れるだけのエネルギーはすでに無く維持するのがやっとだった。


 ADHDの障害名を聞かされてからその後も鬱々とした状態で仕事に行くのが精一杯の4カ月が過ぎた頃には頭の中のかけらにすがる思いで定期的な病院受診と薬事療法から現状改善に繋げたいと上司に願い出てなんとか会社に残りたいと話をし了承を得る事ができた。


 担当医からはすぐに処方箋は出して貰えた。処方された薬品は、『ストラテラ』効果が表れるまで二週間くらいかかる話と『服用しながら様子を見ましょう。』とあっさりした説明を受け薬の服用が始まった。それと同時に障害者手帳の話を聞き申請する事にした。

 ストラテラは頭に作用する薬という事で少し怖い感じがした。初めての一錠を手にして『えいっ!』と口に放り込んだ事を覚えている。飲んでみると私の場合、サーとピーの間のような周波数の高い弱い耳鳴りとのどの渇きを感じた。また服用から半年くらいで頭痛が気になるようになった。

 人のカラダは慣れるもので服用から二週間も過ぎると薬にも慣れ、日常のルーティーンに組み込まれていった。

 私自身、薬の効果を実感できているかというと残念ながらわからない。しかし生活を共にする妻は薬を飲んでる時の私の精神状態には満足しているらしく、私の精神が乱れていたり、イライラしていると『薬飲んだの?』と聞いてくる。


 実感のわかない薬事療法は変わらない職場での仕事状況でもあった。最後の頼みの綱が引っ張られ続けた結果、事件が起きた。

 

後輩のヒロさんのお母さんは、私が会社に入る際に仲介して貰った人でもある。私は入社して二年になるにもかかわらず仕事が覚えられなかった。記憶できない、覚えられない、忘れる。中年認知症のような者でそのような私を使っている会社、関わる人たちはとても大変だったと今でも思っている。私が入社したのが一年程早かったという理由でヒロさんに業務指示をする事が多かった。

 そんなある日、ヒロさんは切れた『やってらんねーよ、お前が辞めねーなら、俺が辞める!』と怒声を浴びせられ突然胸倉を掴まれた。 私はその時、なぜそうなったのか分からなかった。私の言ってる事が分からないという。聞いた瞬間にそうだろうなぁとあっさりと自覚した。


 そして、少し間をおいて原因を考えてみればなぜそうなったかは想像がついた。おそらくその指示の内容が的外れだったり、タイミングがおかしかったりしていたのだろう。自分でも思い当たる節は沢山あった。現場には二人で仕事に入る事が多くなり、ミスを繰り返しながらも何とか上司からの指示をカタチにしている状態だった。

切れたのは一つのきっかけでしかないという事。積もり積もっていたもの、ヒロさんの立場を考えれば気持ちも理解できた。


 今までの経緯とその相手がヒロさんだった事ですぐに上司に相談し辞める事を伝えた。

 社長からは障害者という立場と降格を条件に会社に残る事が出来る事を伝えられた。

 しかしヒロさんの事を思うと残れなかった。

 

そして自分の心もかなり疲れていた。会社から解放されると思えば助かったとも思えた。


 このような経緯で私の発達障害が見つかった職場は二年半で退社する事になった。

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