黒田中です

@sannryuunojinnsei1979

第1話

地球が誕生して、約四十六億年。地球は四十六億回、太陽の周りを、廻り続けキリストの生誕という区切りから、二千年後のちっぽけな話。




 佐世保で定時制高校を卒業後、就職氷河期で就職できずに、フリーターになった僕、黒田中健壱。中古のスーパーカブ50ccを買い、パン工場へ勤める事となった。坂の多い街で、然も、平地でも常にアクセルを全開にしないと、登り坂で速度が落ちるし、出だしで普通車等に煽られる遅い4サイクルのエンジン。でも、ギアチェンジしたり楽しくて気に入っていた。単調な仕事で働き続けては、帰宅すると彼女でも居たらなぁと、呟いていた。休みの日に朝からテレビで放送されているお天気お姉さんが、想像上の理想の彼女だった。


 


 


 西暦2000年丁度の一月に成人式が行われた。ノストラダムスの大予言は見事に外れて、無事に成人した。成人式に参加するためのスーツを買う金が捻出できなかった。紳士服店へ行くと見ていても値段が高い。二着目千円の二着目だけ欲しかった。父親とは身長が、同じだけれど、父親は中年太りして、今着ているスーツは、僕には合わなかった。父親が昔着ていたスーツが丁度、サイズが合ったが、姿見を見ると、昔のスーツの型紙やデザインで、ドリフターズの撮り直ししない、昔の映像そっくりな男になってしまった仕方ないので、このスーツを着て行くことにした。父親と母親が、出席するのは、止めた方が良いと言った。携帯電話を皆が持ち始めた頃で、仲が良かった同級生から、同窓会が開かれるから、同窓会だけ参加しないかと、電話が掛かって来た。


 僕はまだまだ、判断力が鍛えられていなかった。同窓会が開かれている居酒屋に、ドリフターズの往年のスーツで参加してしまった。金を持っていなかったので、カメラにも興味がなく、撮影されて記録に残るとは、考えもしなかった。高校の同級生は、大抵、仕事の為に名古屋辺りに引っ越していた。居酒屋の小上がりで、数人で酒と肴を頂きながら、話し合った。


「お前さ、健壱、弟の健治って、今どうしてるの」


「実はさ、健治って存在しないんだ棒島」


「俺たちさ、小中高、同じ学校だったよな、健壱」


「健治って、見た事無かったろ、棒島」


「そういや、そうなんだよね、同じ家に住んでいるのに、家に居た事も無いし、何故なんだろって思ってた、もしかして、健壱の幻覚だったのかよ」


「いや、嘘でした、なんだか、なんとなく吐いた嘘をウソと切り出せなくてさ、棒島」


「嘘の意味が分からないぞ、健壱、何が得するんだよ」


「子供の頃だったから、密かに嘘を吐いてなんだか面白かったんだよ、棒島」


「罰金で奢りな、健壱」


「お前こそ、知っててせびろうとして、今切り出したろ、棒島」


「健壱、高そうなスーツ着て、結構稼いでるんだろ」


「このスーツのどこがや、棒島、金なら無い」


「知ってる、健壱、呑めよ」


 黙っていた、犬嶋は大嫌いな奴だった。奴は、何故か連絡が取れて、成人式の打上で弾かれたらしかった。尤も、ロン毛にちゃんちゃんこ、とジャージで成人式に現れる奴が悪いのだ。然も、集まっても何時も無言の漢だった。犬嶋はカメラを所持していた。撮影係をすると言って聞かなかった。


 仲の良かった同級生達は、みんな県外へ行って、集まれなくて、結局、真面に会話したことのある同級生とは連絡が付かずにいた。


 酒を呑み始めたばかりの年齢で、日本酒をがぶがぶと吞み、変な酔い方をして、結局、僕が小上がりで嘔吐し、強制解散になった。その際、酩酊して倒れ込んで、ゲロまみれになっていた、その写真は、形容し難いほどおぞましい姿だった。その後、その写真は、同級生たちに焼き増しで、拡散され、僕は人間不信に陥った。同級生とは連絡を切った。






 五年後


 漸く認められパン工場へ就職して、長時間労働で安月給でも人並みに給料が貰えるようになった。貯金をして、そんなに古くもないホンダのライフを買い、休みの日にはドライブへ行く。燃費はそこそこで、ガソリン価格が安い時代だった。


又、貯金をして有り金をはたいて大型免許を取りに行った。教習所以外はだだっ広い道路を選んで走行して取得した大型免許は、実務経験と言うかなりの不安を残して、なんだか意外と簡単に取得できた。僕はパン工場勤務から、パンを運搬するトラックドライバーへと転職した。配達の途中で犬嶋を見掛けたけれど、ファストファッションの普及で奴の容貌は劇的に改善されていた。




 更に五年後。


 彼女と出会ったのは、三十歳の冬、暖冬で真冬でも、長袖のニットで充分な暖かい冬だった。高校の同級生の棒島から電話が掛かって来た。


「合コンを頻繁に開く友達ができたから、一緒に合コンしないか、健壱」


と言って来た。男は染梨と言うらしかった。三対三でセットして貰った。


 居酒屋へ集まって、女の子三人を待った。時間が長く感じられてしょうがなかった。僕はトイレへ行って、ヘアスタイルや、髭の剃り残し、鼻毛をチェックして、席へ戻ると女の子達が来ていた。一人の女の子へ注目が集まった。朝のモーニングショーのお天気お姉さんの様な、とても美しく端正な顔立ちで、スタイルも良く、身長の高い、垢抜けた女性が居た。


もう、一人は、平々凡々な普通だけれど黒子の多い、丸顔の女性だった。丸顔の女性は、服がダボダボとふんわりを狙っているのか、スタイルが確認できない。三人目は、ぽっちゃり、どころか、かなり太目な極太なシルエットの女の子で、番茶も出花で、立派なおば様になりそうといった感じだった。


 お天気お姉さんは、「中村です」と名乗った。丸顔の女性は、「宮崎です」と名乗った。


 極太さんは、「山本山です」と名乗った、予め棒島が教えてくれていなかったら、吹き出して笑っていたかもしれない。


合コンを開いた棒島がメールには、「中村さんは棒島、染梨は宮崎さん、黒田中は山本山」と書いてきた。


然し、棒島は中村さんに相手にされていなかった。


 同級生の染梨と宮崎さんは、上手くいきそうだ。ある程度、飲食したところで、二軒目に行こうと棒島が言った。山本山さんが、「焼肉屋へ行きたいわ」と言い出した。男達の三人も女性二人も却下した。棒島が言った「BARへ行こうぜ、女性の分の金は払うからさ」と。棒島は酔い潰して何とかする気だ。気が早い奴だ。BARに決まった。


 BARで座ってみると、俺の横には中村さんが付いていた。染梨と宮崎さんが横で話していた。棒島は山本山さんの脇腹を摘まんでいた。棒島が山本山さんの事を案外と気に入ったようだ。


 中村さんと一緒に話していると楽しかった。趣味の話題もエギングやゲームや、映画鑑賞の話をとぼけた様に可笑しく話して気を惹いた積もりだった。読書はしないが、勉強家の振りをした。中村さんは読書が好きらしかったが、テレビで追いかけている情報収集で乗り切った。


中村さんの名前は、圭子というと教えて貰って、仕事は事務員さんらしかった。電話番号を教え合って、又、今度会う約束をした。


ある程度、酒を飲みながら話したところで、みんなで電話番号を教え合って、女性達が帰ろうとしている。


 棒島が「カラオケボックスへ行こう」と言い出したが、染梨と宮崎さんだけ、カラオケボックスに行って、帰ってしまった。


中村さんと山本山さんが一緒に帰ろうとするので、聞いてみると、中村さんは車の免許を持ってないので送るそうだ。そう言えば山本山さんは素面だった。






 帰宅のタクシーの中で、棒島と俺は、電話番号を見てるだけで、ムラムラするなと、言い合っていた。その日は解散した。


僕 は次の休みを圭子さんへ聞くためにショートメールを打った。休みの日が丁度合ったのでドライブデートで快く、直ぐに会ってくれる事になった。然し乍ら、自分と圭子さんとの外見や色々な事情や釣り合わないのではないかと、かなり心配になった。もう、俺は三十歳、圭子さんは短大卒の二十二歳、見た目にも釣り合わない。


デートの朝、染梨から電話があった。丸顔の宮崎さんは、バツイチで二人の子持ちだから無理だと言い始めた。僕は言った。


「自由にしたらいい」


 何も言ってないのと等しい逃れ方を、処世術で身に着けていたと、咄嗟に出た言葉から考えていた。確かに責任は発生していない。電話が切れた。


 棒島からも電話が掛かって来た時があった。「未知の体験をした!新しい道を見つけた!」と興奮した様子で話していた。


棒島はマニアックな趣味へと向かって行った。


 




 それから五年後、僕は三十五歳になっていた。棒島と僕は、合コンがきっかけで結婚し、棒島には、子供が三人出来ていた。


 僕は今は大型トラックの長距離ドライバー。高速の降り口を、通って馴染みの地元の街を走行して、会社へ戻る。東京近辺まで二日半で、合計五日間で往復する。給料は良い。自宅も一軒家をローンで購入して、ハイペースで返済中。望み通り結婚出来て、嫁はいるが子供は出来なかった。いや、未だ諦めるに早いのかもしれない。今日も、会社で挨拶をして帰宅する。プリウスで帰宅する。自宅の駐車場に知らない黒塗りのセダンが停まっていた。嫁は居ない。ダイニングのソファで知らない男が眠っていた。XOのボトルと乾きものの肴が置いてあり、グラスが床に落ちていて、トランクス一丁で男は酔い潰れていた。


嫁が風呂上りでタオルを体に巻いてダイニングへ現れた。狼狽える圭子。察した僕は「この間男が!」と怒鳴りながら、男の顔面を踏みつけた。男は鼻血を出して呻く。圭子は「暴力を振るう人は嫌い!」と叫ぶ。僕はそういう問題じゃないだろうと、どういう事なのか聞き出そうと、話しだそうとするが、何故か、嫁は、「知らないんだから、知らないんだから」と阿保になって会話が成立しない。男はスーツを着ると何も言わずに出て行った。嫁も追う様に出て行く。男の身なりから、金回りが良いのが判った。






 三日後、勤めている運送会社へ出社すると、みんなの様子が違う。上司の武藤に、予定を業務連絡で聞くと、福島市まで二日半で行けと言われた。無理だ。食い下がると会社の方針だと言われた。大型車に乗り込み積み荷を載せる工場に向かう。


「あーあ!どうなることやら!」


 今迄の経路とは違う慣れない道路を通り福島に着いたのは四日後で、会社へ戻ったのは九日後だった。上司の武藤と顔を合わせると、仕事ができない奴は解雇だと言われた。明日から来なくていいと言われ、不当解雇だと言うと、既に社会保険の脱退届等、用意してあり解雇ありきのようだった。




 自宅に帰ると嫁の荷物は無くなっていた。自宅の重要な書類を入れた引き出しが空になっていたのが気になった。まあ、腹が立っているのだろう、じきに帰ってくるさ、と高をくくっていた。大型の長距離ドライバーで、給料が良かったから、預貯金はまあまあだ。長距離ドライバーをやっていて、気になったのは、ラフタークレーンだ。インターネットでクレーン学校の問い合わせを行って、クレーン学校の予約と、ビジネスホテルを予約する。




 片道四時間かけて、プリウスで大分へ向かう。福岡辺りから、大分道へ入ると、九重の山頂から、稜線、丘陵しか見えず、山ばかりだ。高速道路を降りると全国チェーンのスーパーや、世界規模のハンバーガーショップ、世界規模の衣料品チェーン店、日本全国どこにでもあるドラッグストアやレンタルビデオ店があり、全国チェーンが繁栄している。ビジネスホテルの駐車場へ車を止めて、チェックインする。今日は寝るだけなので、ホテルの自販機で、ワンカップ大関を三本と、つまみも自販機で買う。泥酔して眠った。


 翌朝、酒臭いのでユニットバスで入浴する。ボイラーからユニットバスへなかなかお湯が出て来ない。時間がかかって焦る。


対面のドラッグストアでも買えるようなパンをホテルの朝食として出されて、食べて講習初日へ向かう。




 座学の物理と電気等の勉強で、僕は所謂、IQと言うのが低かったらしき、学校にしか入学出来ていない事を思い出した。物理と電気は講習の説明がないと理解出来そうにない内容で助かった。講習を終えるとホテルでシャワーを浴びて、酒を呑む。泥酔して眠る。朝からシャワーを浴びる、シャワーは事前に出しっ放しにしておけばお湯が出るまで早い。朝食を食べたら、講習を受けに行くの繰り返しで、一週間終えて、無事、技能免除を取って、高速道路で佐世保へ帰った。




 久留米の免許センターで大分のクレーン学校で講習を受けた人達と再会して、免許試験を受けて無事に受かった。


 雇用保険がまだ残っている。職業訓練校に入って、雇用保険を受ける期間を延ばす作戦に出た。無事に適性検査やテストをクリアして、有りもしない志望動機を述べ電気科へ入所した。初日に隣に座った男の子が、案外良い車で通っている所を見た。話し掛けて、会話をしていると、パソコンやゲームやオーディオのオタクらしかった。自宅が金持ちで、シアタールームやピュアオーディオや、レコードプレーヤーを使っているらしかった。仲良くなって教えて貰う事にした。




 名前は佐藤君と言う。東京の電気の大学へ通っていたけれど、卒業して、就職したけれど仕事を辞めて、佐世保へ戻って来たらしい。佐藤君の自宅を見に行って佐藤君を師匠に家電オタク生活が始まった。僕は自宅に4Kシアタールームやピュアオーディオをセットすると、見放題のサービスや部屋を暗くして、音楽鑑賞や映画鑑賞にに没頭した。かなりの出費をはたいた。佐藤君もグレードの高い機材をポンポン買うので、買い物依存だと言い出した。


「僕は武藤派じゃなくて、佐藤派だから」


僕は、佐藤君に冗談の積もりで喋っていたけど、佐藤君には、何のことやらと言われ、通じなかった。




 職業訓練はラフタークレーンで就職する積もりだと言って、怠けて行かなくなっていた。自分にとって、電気の勉強とは、オーディオビジュアル機器の勉強と目的と目標が、切り替わっていた。自宅で遊ぶことが多かった。冷蔵庫に冷用の高めの日本酒をストックして、昼間から、好きな日本酒を呑んで、酔っ払い乍ら、鑑賞事に浸っていた。映画を大画面で大音量で鑑賞しては、録音が良い映画や気に入った映画を繰り返し観た。オーディオに凝っては、廉価なターンテーブルでは鳴らせないからと高価なレコードプレーヤーを購入したりしていた。レコード盤は、ダビングが効かず盤を購入するにも、結構な金額を費やした。大音量で音楽を聴いては、フォーマット毎の違いの蘊蓄を話したがるようになった。




 職業訓練をサボって、自宅で遊んでいた時、棒島はどうしているのだろうと思った。連絡先を残している唯一の友達だ。棒島に連絡をしてみる。


「久し振り、棒島、最近どう」


「健壱、散々だよ、仕事も続かないし、家でボーっとしてる」


「棒島、うち来いよ、面白いモノ揃え始めてさ、見ながら一緒に酒でも吞もうよ」


「健壱、暇なのか、仕事してないのか、同類だな」


「いやいや、雇用保険貰いながら、遊んでいるだけ」


「良い身分だな、健壱、暇だし、そんな面白いか」


「今さ、オーディオビジュアル機器にハマってて、いいから遊びに来いさ」


棒島が遊びに来ることになった。勿論、片付けなどしない。


住所を伝えた後、一時間後には棒島が来た。


「すっげーな、健壱、金持ちになったな」


「長距離ドライバーやって、金あったからな」


「取り敢えず、乾杯して何か観せてよ、健壱」


「日本酒で良いか、棒島」


「俺、焼酎が良いんだよね、しかも芋焼酎」


「用意しときました、棒島さん」


 それから、棒島と自宅で一緒に入り浸って、鑑賞会を行っては、蘊蓄を述べ続けた。久し振りに会った棒島は、年齢相応に老けてはいたけれど、遊び相手としては、昔のまま、気の合う友達だった。




 就職はあっさり決まった。ラフタークレーンの運転手として、就職して実務は現場では教習所では教わらないことばかりだ。


先ずは造船所のサンドブラストの砂が入ったドラム缶をトラックから降ろす仕事。吊り上げる荷物はそんなに重くない。


門型クレーンの整備中に代わりに移動式クレーンで荷を吊り上げる仕事だったり。




 仕事に就いて半年後。


慣れてきて難しい現場に出る矢先だった。現場で仕事をしていると電話がかかってきた。


「消防です。黒田中さんですか、お宅のお家火事ですよ」


僕は冗談じゃないと思った。趣味の機材は火災の保証で賄ってくれるのかと頭によぎった。


 


 自宅へ駆けつけた時には、自宅は黒焦げの柱が数本、残っているのみで、自宅は消滅していた。


消防署の人には入らないで下さいと言われたがオーディオルームに入ると見たこともない電熱線の暖房器具があって洗濯物が焼けていた。こんなもの見たことないですといっても聞いてれない。


住宅の現場検証をしている間に保険会社へ電話した。火災保険が解約されている事が判った。


「やられた、妻と間男の仕業です」


僕は警官に話した。


「暖房器具の火災でしょう」


警官は取り合ってくれない。




 今晩泊まる所どうしよう。キャッシュカードには引き落としを抜くと五万円しか入ってなかった。財布には一万五千円。ビジネスホテルにでも泊まるか。街中のビジネスホテルは高い。マッサージを呼ぶと財布の中身は三千円になった。なんでこの期に及んでマッサージを呼んだのか、後で後悔した。


佐藤君が買い物依存だと言っていた説教が身に染みた。このペースでは給料日まで持たない。やっぱり、頭が悪いのだ。職場へ通勤するのに、50ccの原付スクーターを中古で、一番安いモノで購入した。スマホの充電器を持っていないので、スマホの充電器をコンビニで買う。


 翌朝はビジネスホテルで入浴して身支度はできたが汗臭い昨日の作業着で通勤した。作業着を貰おうと思った。


「作業着の替えがないので、欲しいんですけど」


「黒田中さんのサイズは、今切らしてるから、小さいのしかなくて、自分で適当なものを買ってもいいですよ」


 昼間っから、酒浸りになっていたせいで、中年太りしていた。に十キログラム近く太ってしまっていた。サイズがなくて支給して貰えない。毎日同じ作業着でジャージだけ買ってコインランドリーで洗濯して職場へ行った。


私服の着替えもジャージしか持っていない。職場の事務員さんが僕を白い目で見るようになった。宿泊先を金が無いので、カプセルホテルに泊まった。だんだん怒りが込み上げてきた。


「ちくしょう」


と怒鳴ると周りから声がした。


「うるせぇな、出て行けよ」


 僕は完全にキレた。カプセルホテルから外へ出て自宅を見に歩いて行く。品のない笑い声のチンピラ風の男と嫁と居たセダンの男が繁華街のレストランの駐車場に居た。


「この野郎」


僕は怒りで走って行って掴み掛った。体格のいい男に投げ飛ばされた。こっちは一人。向こうは五人だ。当然負ける。何かの格闘技をしているらしくて喉にパンチを食らってボディーブローの後に回し蹴りでノックアウトされた。言葉にならない罵声を発している僕を笑っていた。意識が朦朧として倒れた。




 次に目覚めた時には病院のベットだった。包帯でぐるぐる巻きにされていた。看護師さんが面会があると言うので、誰だろうと思っていると、妻とセダンの男が来た。嫁は白い目で僕を見ていた。僕に離婚届にサインをさせると僕は泣いてしまった。


「せいぜい、頑張るんだな」


鼻に傷の跡が残ったセダンの男が言い残して去った。


「黒田中って苗字なによ」


「圭子、それに不満があったのかよ」


「そうよ、健壱、さよなら」


人生の色々な何かが終わった。出会った時から終わっていたのかもしれない。僕は窓の外を見た。看護師さんが話し掛けて来た。


「清拭をしますが、ご自分でされますか、黒田中さん」


「いえいえ、お願いします、看護師さん」


僕は思った、まだまだ、人生に良い事あるかも。

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