第39話 そして全てを失った

 あの時以来だった。

 奴を見るのは。


 あの時と同じ個体かは分からないが色が同じであったため、種類は同じかもしれない。


 ドラゴンの肉を食べた者から、同族臭フェロモンを奴らの嗅覚で感じ取っているらしい。


 結局その後2人とも丸焼きにされたが、ナスカだけは竜肉の効果で死ななかった。


 死ねなかったのだ。


 痛覚はそのままだったため、生まれてからこれまで全く体験したことのないような地獄の苦痛を味わった。その少し前に刺さった岩の痛みなど比べ物にならないくらいの苦痛を。




 いつか復讐すると決めていた。


「決めてたけど⋯っ!!!」


 だがいざあのおぞましい縦に割れた鋭い眼球と全てを包み込むような翼を持った巨体すがたを目にすると頭が危険信号を出し、足を逆方向へと向かわせる。


 ────情けない⋯。


 不死になって初めて目が覚めた時、村は焼け野原になっていた。


 変わらないのは海だけで、人工物はもちろん森などの形あるものは全て真っ黒な平地にされており、そこら辺から煙があがっている。


 カーヤも家も義両親も学所も全部、焼き尽くされていた。


 毎日その事を思い出す。そのたびに涙が溢れてくる。今回もそうだ。現在進行でドラゴンは街を破壊しているというのに。


 このままでは王国街も、故郷と同じ末路を辿ってしまう。


 ガイコツ騎士から受けた傷はもう治っていた。


 だけど体が動いてくれない。

 涙も震えも止まらない。


 泣きながら背中がズルズルと、壁から地面に落ちていく。


 と、その時───────


「ナスカー!どこだー!」


 ナスカを呼ぶ声がする。


 古舘たちの声だ。


 ────そうか、まだ仲間がいたんだった。


 ナスカは涙を拭い、声のする方へ走っていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る