第35話 そして私は不死になった 3


 何やら小さな動物の死骸が横たわっていた。


「これって…」


 その動物の姿に、ナスカは見覚えがあった。


 岩のようにゴツゴツした口。その口内にはどんな物でも噛み切るであろう鋭いキバが付いている。そして体には芸術作品のような鱗が鎧のようにひっついており、翼まで携えていた。


 海で泳ぐ類の生物でないことはひと目で分かった。


「ドラゴン…」


「え?」


 カーヤが聞き返す。


「これ、ドラゴンだよ!!」


 ナスカは動物関連の学書でドラゴンに関する情報を見た事がある。





 ───学所内の書籍室

 ズラリと規則正しく立っている成人の背丈より高い本棚たちの最も端にある棚。さらにその棚の最も下の、最も隅にその本はあった。


 端の本棚に収められている本たちだけは全体的にホコリを被っており、かなり長い期間誰にも読まれていないということがひと目見ただけで分かったのだが、そのうちの1冊がナスカの目に留まった。


「ド…ゴン?なんだろこれ」


 ただでさえホコリが被っていて色落ちしている本たちに比べてよりいっそう汚く、ボロボロだった。それゆえ逆に目立ったのかもしれない。だがホコリを払っても、色落ちし過ぎて背の題名すら視認できない。


 それまで両手を膝につけ、尻を後ろに出すようにして体勢を低くしていただけだったナスカは物を拾うような仕草でしゃがむ。


 本背の上を人差し指でチョイと引っ張って、そのボロボロ本を引き出してみる。


 引き出した際、本の奥からホコリが出てきたので、ナスカは咳き込んだ。


「なああまったく!書籍室の管理員、ちゃんと掃除してよね」


 表紙を見る。


「ドラゴンに対する知見…?」


 ナスカもドラゴンという言葉と生物は知っていたが、姿形は知らなかった。


 この世界いせかいにおいてドラゴンはマニアックというか、希少な生物(現実世界でいうところのリュウグウノツカイやサルパ、クリオネ的なレベル)であった。


 それ故に深く調べるということはなかったが、どの生物にも似つかない強烈なフォルムだったので、学書を見て以来忘れることはなかった。

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