記憶の本屋

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話


「ようこそ」

 少女のそんな声で、俺は目が覚める。

「ここは?」

 目の前には真っ白な長髪に、真っ白なワンピースを着た美少女が座っていた。

 青色のワンポイントが白のワンピに映える。少女の目も青みがかっていてキレイだった。

「ここは本屋さんです」

「そうは見えないけどな……」

 あたりを見渡してみると、そこにはたくさんの脳みそが浮いていた。

 脳は何やら液体に浸されていて、ガラスケースのようなものに入っている。

「ほら、こんなにたくさんあるじゃないですか。ご本」

「本って、これか? 俺には脳みそにしか見えないな」

 水槽の中の脳みそってやつか?

 なんにせよ、気色の悪い空間だ。

 この少女は、こんな得体の知れない空間で一人なにをしているのだろう。

「この箱ひとつひとつがご本なんです。それぞれに名前もついていますよ?」

「ほう、そうか。なら一つ俺に読ませてくれよ。本というのだから、読めるのだろう?」

「いいですよ。どれがいいですか?」

 俺は適当に一つ脳みそを選んで指さす。

「はい、どうぞ」

 少女がなにやらスイッチを操作すると、俺の中に大量の記憶が流れ込んだ。

 これは、脳みその持ち主の記憶か?

 というか、そもそも俺は何者なのだろう。

 俺は、なぜこんなところにいるのだろう。

 そんな疑問が頭をよぎる。

「思い出した……」

 そうか、さっきの脳みそは俺のものだったのか。

 俺はいったい何者で、何故ここにいるのかを、完全に理解した。

「私のものも、みますか?」

「え……?」

 少女がそういうと、また俺の中に記憶が流れ込んできた。

 これは、少女の記憶だ。

 なぜ彼女がこんなところでこんなことをしているのか、それらがすべて理解できた。

 そして、俺と彼女の関係も……。

「そうか、そういうことだったんだな」

「ええ、そうです」

 俺は彼女にそっとキスをした。

 これはつまりそういうことなんだ。

 俺と彼女は、このおかしな本屋から、出られなくなっている。

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