仮題 ふみ

ぐり吉たま吉

第1話




「あぁ…兄様…文吉兄様…」


「さよ…さよ…」


この2人の男女は、実の兄妹でありながら、禁忌を犯し、兄は妹を身籠らせた…。


月日が経ち、産み月になると腹の膨らみも隠せなくなる…。


山奥の狭い村では、その事は、直ぐに皆に知れ渡る処となり、夜中にふたりで村から逃げ出る…。


山を下り、また、坂を歩み、深い谷脇の山道に差し掛かると、妹は急に産気づく…。


ふらつく妹を庇う為、兄が妹の手を取るその時、ふたりは谷へ滑り落ちる…。


谷の崖肌の固い岩に身体中をぶつけながら、谷底の大きな石に妹を庇い、身体を叩きつけられ、憐れ兄は息をひきとる…。


瀕死の妹は、それでも腹の我が子だけはと、命をかけて産み落とし、命が尽きて、兄に寄り添い息絶えた…。


翌朝、旅の行商人が谷間で泣く赤子を見つけ、谷へ降りると、顔見知りの兄妹…。


そうか、これは禁忌の子…。


しかし、産まれて間もないこの子をこの俺が、放す訳には行かないと、売り物の晒(さらし)で、その子を包み、砂糖を溶かし、糖水を飲ませた。


そして、行商人は赤子を抱いて、兄妹の住んでいた村へと歩み出す…。


村の外れに、姿が見えない兄妹を追って、兄妹の母親が立っていた…。


行商人は母親を見つけ、


「お前の子らは、谷へ落ちた…。兄妹は共に今は野晒しだから、早う供養をしてくれろ…この子は二人の落し子じゃから、産湯につけて、乳をあげろ…」


行商人は、母親にそれだけ告げて、赤子を渡し、クルリと足早に去っていった…。



兄妹の母親は、赤子に「ふみ」と名付けて、禁忌の子…忌み嫌いの子…と、村の衆に罵倒されても、惨めな思いはさせないようにひっそりと村の中で暮していた…。


ふみは数えで10歳になった…。


子供ながらにも、顔立ちは美しく、無口で大人しい子に成長した…。


そんな折、祖母が病気で倒れ、帰らぬ人となる…。


ふみはひとりになった…。

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