第8話、取り戻す過去

 暗黒の空間、其処で俺はすべてを思い出した。そうだ、あの日俺は全ての記憶きおくを代償に死から生き返ったんだ。全て、思い出したよ。

 そして、俺は虚空こくうに話し掛ける。

「居るんだろう?ベリアル……」

「ふふっ、ようやく思い出したか。ずいぶんとかった物だ」

 何もない虚空から、一体の悪魔あくまが現れた。俺とうり二つの姿形をした異形いぎょう。悪魔ベリアルだった。今、此処に居るのは俺とベリアルとベルフェゴールだ。

 俺はベリアルの方を向いて話し掛ける。

「……ベリアル、契約けいやくだ。お前の持つ力を俺によこせ」

「ふむ、ずいぶんと悪魔に対して強気つよきだな。だがそれで良い、で?その対価たいかに貴様は何を支払しはらう……」

「今の俺は何も支払わない」

「ほう、今は……」

 そう、今は支払わない。それはつまり、対価の後払あとばらいだ。

「俺が支払う対価は俺の肉体からだだ。俺が死んだ後、俺の死体したいはお前達悪魔にやる」

「ふむ、死後残った死体からだを我らに対価として支払うと?」

「そうだ、死後俺の肉体は好きにしてくれてかまわない」

 それはすなわち、魂ではなく肉体の契約。俺の魂は悪魔にくれてやるつもりはない。しかし死後残った肉体はきにして良い。そういう契約だった。

 果たして、その契約にベリアルは……

「ふふ、ははは……ははははははははははははははははははっ‼‼」

 高らかに哄笑こうしょうを上げた。何が面白おもしろいのか?ともかく、悪魔としては面白いらしい。

「良いだろう、契約は成立せいりつだ。ベルフェゴール、貴様はどうだ?」

「ふむ……小僧、貴様に一つだけきたい」

「何だ?」

「全ての記憶きおくを取り戻し、お前はあの小娘へのおもいを取り戻した。だが、それで小僧は本当の意味でのしあわせが存在するとでも思っているのか?」

「思っているさ」

 即答そくとうした。一切迷いなく答えた。

 それだけは迷う事なく答える事が出来る。それだけは絶対ぜったいに断言出来る。それだけの自身が。いや、確信かくしんが存在する。

 しかし、ベルフェゴールにはそれが分からないようだ。怪訝けげんな顔をしていた。

「それは何故なぜだ?」

「下手に探求たんきゅうしようとするから逆に見えなくなる。子安シアンがそうだったように誰かが誰かを想う気持きもちに偽りが無ければ本当の意味で幸せは其処にあるのさ」

「……そうか」

 まだ、何処か納得出来ない様子だったが。ベルフェゴールは一先ず納得する事にしたらしい。目を閉じてうなずいた。

「なら良いだろう。俺はお前の中からずっと見ているぞ?本当の意味いみで幸せが存在するのか否か。お前達の姿を見て結論けつろんを付ける事にしよう」

「ああ、そうかい……」

 そして、暗黒の空間にひかりが生まれ。やがてその光が強くなっていった。

 俺とベリアル、ベルフェゴールはその光にまれてゆき……

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