第20話 黒幕は知らずに笑う

ジーナがケネスに仕えるようになって一か月経った。


明日は、聖女が召喚される日だ。議会が開かれ、明日のスケジュールが発表された。聖女の世話係がケネスだと発表されると、議会が騒ついた。


「これは決定事項だ」


「「「しかしっ……」」」


『やっぱり反対するよね。でも、なんとか納得して貰わないと』


ケネスがなんとか納得してもらおうと口を開く前に、冷たいライアンの声が議会に響き渡った。


「反対意見があるなら、ちゃんと家名を名乗って書面で出してよね。ほら、そこにちゃーと紙があるでしょ? 今すぐ書きなよ。国王である父上の決定に逆らうんだから、それなりの覚悟はあるんでしょう? 大丈夫、兄様が頼りないから駄目だ! なーんて馬鹿げた意見じゃなければ、父上はちゃんと検討してくれるよ」


優しく笑いかけながら告げられる嫌味に、貴族達は全員口を閉ざした。


「反対意見はないようだな。あるなら今日中に書面で出せ。私もライアンもケネスが相応しいと思っている」


「そうですよ。兄上も僕も、聖女様に詳しくありません。聖女様のお世話係として勉強を続けた兄様には敵いません。王族がお世話をするのは決まりなのですから、我々3人の中で一番聖女様に詳しい者を選ぶのは当然です」


「確かに頼りないとのご意見がある事は把握しております。ですが、お役目を果たせるようにきちんと準備は整えていますのでご安心下さい。聖女様に関する書籍は全て内容を覚えています。お疑いなら、ここで試験をして頂いても構いません」


「私は覚えてないからな」


「僕もです」


静まりかえった議会に、大きな拍手が響き渡った。


「良いではありませんか! 毎回毎回、聖女様のお世話係を取り合う王族が多い中、我が国の王子達は実に素晴らしい!」


そう言って拍手したのは、ハント公爵だった。彼は貴族の中でも発言力が強い。そんなハント公爵が賛成した事で、貴族達は渋々ながらも賛成した。


その夜、ハント公爵は数人の貴族と会食をしていた。


「何故、あんな出来損ないの味方をなさったのですか?」


「ライアン殿下が王になるには、上2人が居なくならないといけないだろう? 王太子は結婚する素振りがなさそうだから、放っておけばいい。あの出来損ないも放っておけば良いと思っていたが……最近妙に評判が良くなってるからな。大恥をかいてもらおうと思ってな。聖女様のお世話係は、聖女様が選ぶんだ。あんなみっともない男より、王太子やライアン殿下を選ぶと思わないか?」


「なるほど……!」


「確かに! あんな地味な男より、王太子殿下やライアン殿下の方が何倍も美しいですからな!」


「最近は、騎士団に出入りして少しはすっきりしたようだが、それでもあの2人の美しさには敵わないだろう。過去でも、お世話係を申し出た王族が聖女様に拒否された事があっただろう?」


「そうでしたな! そうなれば大ダメージです!」


「そう、エレノアも居なくなってしまったからな。一気に評判を下げておきたいんだ。上がってから落とす方が、絶望感を味わえるだろう?」


「エレノアが失態を犯すとは思いませんでした。申し訳ありません」


「……いや、あの子は上手くやってたよ。解雇されたのは残念だが、あまり長く居ると疑われるからな。ちょうど良かった。わざとクビになるような態度を取るなんて、さすがだな」


「き……恐縮です」


「解任されたと聞いて、すぐに私の息のかかった者を侍女に据えようとしたが、遅かった。まさか平民の女を後釜にするとはな。しかも、他の使用人は要らないと公言されてしまった。王太子やライアン殿下には目を光らせる忠臣が居るせいで、潜り込めない。あの出来損ないだけは、隙があったんだが……まぁ、平民なら妃になる事もないし、放っておけば良い」


「しかし、あの女は邪魔です。使用人達はすっかりあの女の言葉を信じて、土下座で謝罪した者までいる始末です。今では慈悲深い王子だと評判が高まっています。貴族達はまだ気づいておりませんから、今のうちにあの女を排除する方がよろしいかと」


「そうだな……出来損ないが聖女様に夢中になっている間に消えて貰うか。平民一人くらい、消えても誰も探さん。ジェシカをライアン殿下の好みに仕立てたから、そろそろ出会いを演出しよう。最近は女遊びをしていないと言われているが……」


「ジェシカ様なら、どんな男もイチコロです」


「当然だ。私の娘だからな……。王妃に相応しいのは、ジェシカしかいない」


「その通りです!」


ハント公爵は娘を王妃にしたがっており、何度かビクターに申し出も行った。しかし、ジェシカがケネスを馬鹿にしたのでビクターはなんだかんだと言い訳をしてジェシカと会わなくなった。その為、ライアンに目を付けたのだ。


ライアンに至ってはジェシカをとてつもなく嫌っており、会わない令嬢リストに入れているのだが……ハント公爵はそのことを知らない。


叶う事のない夢を見ている貴族達の宴は、深夜まで続いた。

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