2. へびの尻尾をあたしにとめて

9. たくさん食べておっきくなりなー

 三回目のお母さんとの面会を終えて、あたしは女子寮に帰ってきました。

 

 もう夏です。

 三階建ての協会の寮は、窓を開けるとお庭です。夜なんでほぼ真っ暗ですけど、とこ夜火よびがちらちら揺れたりして、いいんじゃないでしょうか。

 あたしは二階の真ん中の部屋に、ルルビッケと二人で住んでいます。

 マートル裏での生活が嘘みたいです。


「えー! ほんとに!? ほんとにー!?」

 ってルルビッケがびっくりしてました。なぜか年をきいてきたんで、答えたんですよ。十三歳だって。

「十歳とかじゃなくて!?」

「あたし、最初に会った日にも言ってますよぅ」

「あれー?」「あれれれれれー?」

「ルルビッケはともかく、ボンシャテューまで忘れちゃったんですね」

 ボンシャテューはヒバリです。ルルビッケの使い魔。

「るるルル様の忘れた事はシャテューも忘れれるるる」ってパタパタと主張しています。そのルル様の頭の上で。

 ルルビッケの髪は灰色がかった茶色で、クセが強くて、もしゃもしゃ膨らんでいます。ヒバリが中でうずくまると、パッと見てもわかりません。


 あたしは学科の帳面ノートを閉じました。朝は訓練、昼間は仕事、夜は学科。土曜は特別訓練とお勉強がお昼まで。最近ようやく慣れてきたところです。


夜学よるがくでさー」ってルルビッケがベッドに座り込みました。

「雇用契約は十二歳までできないって聞いたのー」

 知りませんでした。

「じゃあエーラちゃん十歳だからダメじゃんって思ってさ。悪いやつに騙されてるんだったらどうしよーってさー」

「勝手に十歳にしないでくださいよ。どういうことですか」

「だって十三歳にしてはちっちゃくない? やせっぽちだし」

「ルルビッケに比べたら、誰だって、ちっさいですねぇ?」

「あー、怒った? 干しリンゴあげる」

「いいです」

「おいしいよ」

「いいです」

「いっぱいあるよ」

「……やっぱり食べます」

「んふふふー」

 ルルビッケが紙袋からごそごそして、ぺらっと薄い干しリンゴを二枚出しました。

「かたち……丸ごと干してるんじゃないんですね」

「ねー。わざわざ輪切りにしてるの。なんでだろうねー。シャテュー知ってる?」

「るる、輪切りりりりにしないと、干しても乾かない。乾く前に腐るるるる」

「あそっかー。すごいねシャテュー。ほら食べな?」

 ルルビッケが一枚を半分にちぎって頭に持っていきました。ボンシャテューが出て来てついばみます。なんでヒバリが干しリンゴに詳しいのかさっぱりですが、あたしも一枚もらいました。

「ありがとうございます」

「いいのいいのー」

 ってルルビッケがそばかすだらけの顔をくしゃくしゃにして笑うのを、あたしはまっすぐ見れません。すこし顔を背けて、もらったばかりの干しリンゴを口に入れます。

「……?」

 あんまり味がしない? あ、いえ、してきましたね、してきました。わ、なんですかこれ。口の中でだんだんリンゴに戻っていきますよ。少しずつ甘い果汁が染み出てきます。噛むと、さくり、リンゴです。

「おいしい?」

 うんうんうん。

「たくさん食べておっきくなりなー」

 ってルルビッケがお姉さんぶります。もう一枚もらいました。たいてい、いつも、ほぼ必ず、ルルビッケはあたしが何か食べてるとおっきくなれって言います。


「あのぅ、ルルビッケ」

「なにー?」

「もう一枚……」

「あはははははは!」


 でも、あたしがおっきくなる日って、来るんでしょうか。

 あたし「大人にならない薬」飲んじゃってるんですよね。

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