とある偏執的純愛の始まり

筋肉痛

本編

 僕は彼女がたまらなく好きだ。

 友人曰く彼女の容姿はさほど優れているわけではなく、クラスで5番目といったところ。何がそんなに良いんだ?話した事もないんだろ?と愚かにも友人が聞く。

 容姿や"話していて楽しい"などと、低次元で好いた惚れたをやっている俗物と僕は違うんだ。そんな俗物達に僕の究極の愛情表現は理解できるはずもない。

 彼女はその存在自体が特異だ。まるでこの世のモノとは思えない雰囲気を放っている。どうやらそれを感じることができるのは僕だけのようだけどそれで良い。ライバルは少ない方が助かる。


 今、僕は本屋にいて本棚を物色している。ただ、探しているのは本ではない。彼女の姿だ。2週間ほど前にこの本屋に入っていく彼女の姿を見てから、毎日通っている。

 個人でやっていて小ぢんまりとした店だから、何も買わずに出るのは気まずい。家には読む予定のない文庫やコミックスが積み上がるばかりだ。だが、彼女への気持ちを表しているようで、それも心地よい。


 いよいよ待ちに待った彼女が登場した。はやる気持ちを深呼吸で落ち着かせて、よく観察する。彼女は凛とした足取りで迷うことなく、目的の本棚へ向かう。ピンと伸びた指先で本の背表紙をなぞり目当てのタイトルを探す。その姿は、とても官能的だ。僕の背表紙も改めてもらいたい。

 もちろん、声を掛けるなんて無粋な真似はしない。ただ、仕掛けをひとつだけ。鬼が出るか蛇が出るか。勇気を出せ。悪くてもひとつの恋が終わるだけだ。

 彼女が見つけた本へ僕も手を伸ばす。二人の手が触れる。


 その瞬間、彼女が飛び退いた。手を引いただけではない。体全体で回避行動を取ったのだ。まさか僕の殺意あいが伝わったとは思えない。それは一般的に過剰反応だ。そして、その過剰さは異常さへと接続した。

 こちらを振り向いた彼女は両手で拳銃が構えていた。その銃口は僕の心臓を確実に捉えている。ああ、なんて気持ちがいいんだ。


「貴様、この本のことをどこで聞いた?3つ数えて答えなければ撃つ。余計なことを言っても撃つ」


 彼女は淡々と数を数える。なんと透き通る声だろう。その声に聞き入って人生を終えてしまいたいと思えるほどに。さあ、僕の殺意あいと貴方の殺意、どちらが大きいか。今すぐ試そう。

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