第27話 新たな未来(1)

新たな未来


明日香は大学4年になっていた。卒業まであとわずか。

卒業公演には結芽と組んで演奏予定だ。


彼女は鎧武者の妖怪に取り憑かれ、あわや・・というところだった。

彼女が私に相談してくれたので、父と颯さんの力を借りて何とか事なきを得た。

今では良い(?!)思い出だ。


そんな彼女が将来のお姉さんになるとはこの時思わなかった。


颯さんと私は相変わらず魔物の浄化を行っている。人間の負の感情から生まれる魔物は浄化しても浄化しても際限なく生まれる。イタチごっこだ。それでも颯さんと共に精一杯頑張っている。

彼は私と結婚する前は七百年という気が遠くなる位の長い間たった一人で孤独の戦いをしながら私を待っていてくれた。

こんなにも愛されている私は本当に幸せだと思う。私も今では颯さんの事を心から愛しているし、

颯さんの伴侶として私は自分に出来得る限り支えとなって一緒に生きていきたいと思う。



颯さんは最近考え事をしている様子で、何か悩んでいるのかと心配になる。

彼ともっと一緒の時間を取りたいけれど、今は卒業公演の事で忙しくて最近帰宅時間も遅いのでなかなか話せない。


就寝前のわずかな共有時間で彼と話す。

「颯さん何か気になることでもあるんですか?私が忙しくて一緒にいられないし、話を聞くこともできないので気になって。何か悩んでいることがあれば話してください。私で出来ることならなんでも協力しますから。」そう聞いてみた。


「いや、大丈夫だよ。今は卒業公演に全力で向き合って。私の事はその後で構わないから。」

「やっぱり何か悩んでいることがあるんですね。なら話してください。」

「悩んでいるのではない。明日香が大学を卒業したら新たな未来を見たいと思っているだけなんだよ。だから今は卒業公演に全力で向き合ってほしい。」

「新たな未来?」

「そう、新たな未来。でも今はそんな事気にせず頑張ってね。」

「はい。ありがとうございます。」


きっと卒業したらわかることなんだ。そう納得してそれ以上は聞かないことにした。


結芽と一緒に何を演奏しようかと話す。あれが良いか、これが良いかとなかなか決まらない。

結局”フルートとピアノの協奏曲”にした。オーケストラと共演なので楽しみだ。

フルートは単体で奏でるのは正直寂しい。ピアノと共演したりフルート2本以上でアンサンブルとか、オーケストラと共演した方が断然良い。


音が何重にも重なり合った美しいハーモニーは、気分が最高に盛り上がる。音楽は人の心を癒す

パートナーだと私は思っている。


それは私と颯さんにも言えることだ。

彼が私を愛し、私も彼を愛した。お互い自分より大切な存在。生涯彼の側で生きていきたい。


そう思える相手に出会えたことは本当に幸運だった。それがあやかしだとしても。。

彼は私に優しく穏やかで私の心を癒し安心させてくれる。でも私は彼にとってそんな存在になれているだろうか、と考えてしまう。


でも今優先することは卒業公演。彼とは今まで培ってきた絆がある。私と彼の大切な事ならば必ず話してくれる。だから大丈夫。そう思った私は、今やるべきことを優先させようと前を向いた。



卒業公演当日は、澄み渡った美しい空が何処までも広がる最高の日だった。ただ一つ残念なのは、瑠衣が来られないことだ。瑠衣も美大の卒業制作展と重なり、こればかりは仕方がない。

後で動画の見せ合いっこをしようと約束している。


公演の準備のため、いつもより早い時間に家を出る。

「明日香、今日は家族で見に行くからね。楽しみにしているから頑張るのよ。」

と母からエールが贈られた。

「うん、有難う。来るの待ってるから。」

「颯さん、行ってきます。」

「観に行くからね。しっかり頑張るんだよ。」

「はい!」

今日は今まで頑張って勉強してきた全てを見てほしい。





公演会場は県立文化会館の大ホールで開く。収容人員は2000人。

会場は大学関係者、卒業生の家族、一般の人でごった返していた。その中でも私の家族は目立っていたらしい。当然と言えば当然だ。父と兄はスーツで来てくれたが坊主頭だし母は音楽界の有名人で顔が広い。


そして何より颯さんが姿を見せている。その容姿は非常に目立つので当然ながら注目度も半端なかった。白のTシャツに黒いチョーカーとテーラードジャケットにパンツを合わせ、白銀の長い髪をひとつに纏めて縛っている。超人気モデルと比べても遜色ない位カッコいいその姿は、男女問わずあちこちから熱視線が飛んできていたらしい。


”らしい”というのは、後で母から聞いたからである。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


いつもありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る