第25話 真夏の夜噺(1)

真夏の夜噺




3人のおしゃべりは止まることを知らず、結局二人共泊ることになった。

夕食も颯さんを含めて6人でにぎやかに食べた。


漫画で私の事情を知った結芽は、驚きつつも受け入れて、労をねぎらってくれた。


「世の中不思議な事や恐ろしい事は沢山あるけど、目の前に典型的な見本がいてなんだか変。」

と結芽がしみじみ言った。

「人の事、お化けか何かみたいに言わないでよ~。」と思わず叫んだ。

「ま、ここはお寺だからね。」「うんうん。」

「はあ。結局そこに落ち着くんだね。」と私はため息をついた。


魔物に取り憑かれ、それを颯さんと私が浄化したという共通点もあり、瑠衣と結芽も打ち解けて、

良い友人関係になれたみたいで、本当に良かったと思っている。


「明日香と颯さんがいてくれたお陰で、今私達は無事なんだね。ホントにありがと。」と結芽に言われた。

私は照れながらも「私はまだまだ颯さんに頼りっぱなしだよ。彼をフォローしてる自覚はあまりない。まあ、少し役に立っているのなら、それは精霊の笛が助けてくれてるだけだから。私自身には何も無いよ。」




と言えば、瑠衣は

「颯さんは前世からずっと明日香の事好きで、生まれ変わるまで七百年も待って、念願が叶って夫婦になって、協力し合って浄化の仕事してるんだから、明日香に力が無いなんて有り得ないから。愛の力は偉大だね。」

「そうだったら嬉しいけど。」

「絶対そうだよ。」と二人は口を揃えた。




「まあ、確かに世の中不思議な事はいっぱいあるよ。じゃ、真夏の夜噺聞く?」

「「是非お願い!!」」


そしてわたしは話し始めたのだった。


***


「私が精霊の笛を授かり、颯さんと一緒に魔物浄化をするようになって、色々と考えさせられたことがあってね。魔物って元々は人間が作り出したものなの。」


「「え!!そうなんだ」」


「うん。人間の負の感情が集まって出来てた。人間だけじゃなくて、人間に理不尽に殺されてしまった動物もいた。ホントにやるせない気持ちになったよ。」


「えっと、蛇の魔物だっけ?!」

「うん。人間のやった事が結果として怨嗟の塊、つまり魔物になった感じ。」

「・・・。」


「動物の感情ってストレートで淀みがないでしょ?良いか悪いかの二択だけ。喜びの感情も恨みの感情も増し増し。その結果が蛇の魔物になったんだよね。」


「その状況を作ったのが当時の暴君ってこと?!」

「だね。どうしようもないほど自己中で、理性や忖度って言葉が通じなかった人だったんだね。

というか、人間を捨てていたかも。現代では絶対に許されない存在だね。」


「「肝に銘じます・・・。」」


「颯さんもオオカミのあやかしだから、蛇の魔物の気持ちは痛いほど分かっていたと思う。

名前もヤトって呼んでたの。思い入れはすごくあったと思う。それでも彼は、不動明王の魂を分け与えられた存在であり、使命を背負ってる。内心葛藤はあったと思うけど、それを態度に出さずに使命を全うする姿に、私は一生ついていくと改めて思ったのね。」


「そっか。それは明日香だけしか出来ないことだよね。颯さんも嬉しいんじゃないかな?」と結芽が言った。それに瑠衣も同調している。


「私ね、颯さんの事を心から愛してるの。前世で彼はオオカミとして自分の使命を果たして死んでしまったけれど、彼の強い思いがあって今は夫婦として一緒に居る。その思いを心から感謝してるし、受け止めたい。」


「なんか、当てられたなあ。私も結婚したくなっちゃった。!!」と結芽はほほ笑んだ。


「明日香は颯さんと夫婦になって幸せなんだね。ホントに良かった。」瑠衣も息を吐きながら言った


「そうだね。所謂普通の結婚とは違うけれど、私は幸せ。彼といると心が強くなるしお互いを思い遣る気持ちが出てくる。この気持ちで魔物と向き合っていると、心に余裕が出来るんだよ。そしてね、不思議な事に笛を持つとね、私の気持ちを汲むみたいで、自然と選曲してるんだよね。」


「それ・・・音楽家としても物凄く大事な事なんじゃ…。」と、結芽はまぶしそうな顔をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る