第9話 悪因悪果(3)
積怨蛇の体はどんどん上昇して、尻尾を地面に固定して全身が露わになった。
とぐろを巻いていたときには分からなかったが、頭の下と尻尾に近い所に足が4本あった。
眼光は更に鋭くなり、真っ黒い胴体に鱗が不気味に光っていた。二つの頭に生えている角は捩じり飴のように見え、大きな口から鋭い牙が見える。颯さんは毒に注意しろといった。
噛まれたら多分即死だろう。
積怨蛇は口を開け頭を大きく振り被り、颯さん目掛けて思いきり突っ込んできた。
「危ない!!」思わず叫んでいた。
ガツッ!!
いつの間にか颯さんは炎を纏った倶利伽羅剣を握っていた。剣が積怨蛇を打ち返す。
「400年前はその剣に遅れを取った。だが今度は負けない!」
体制を立て直し、猫が毛を逆立てるように鱗を逆立てた。そして口を閉じ、もう一度
頭を振り被り勢いよく口を開けた。すると黄色い液体を吹きかけてきた。
俱利伽羅剣を素早く上下左右に振り、液体を霧散させた。
だが、私の周りに張られていた結界にほんの少し付着した瞬間結界が熔けた。
「これは!毒?!」
噛まれる事を警戒していた私達は、まさか毒を吹きかけてくるとは思わなかった。
「!!」
流石の颯さんも一瞬瞠目した。次の瞬間私を守ろうと目を向け何か言おうとしたが、そこに隙が出来た。積怨蛇はその隙を見逃さなかった。
「2人纏めて冥府へ送ってやる!!」そう叫び、また毒を吹きかけてきた。
瞬時に俱利伽羅剣をバトンのようにグルグル回して躱すが、圧倒的な液体の量は周りに飛散し、地面に落ちた液がジワジワ迫ってくる。毒にやられてしまうのは時間の問題だった。
このままでは2人とも死んでしまう。この状況を何とかしなくては!
さっき、”鎮魂の詩”に反応して姿現したよね…。ならば、”レクイエム(安息)”しかない。
元はといえば人間が理不尽に奪った命を颯さんが憐れんで、浄化ではなく供養して魂を慰めようとした。鎮まっていた魂は、人間の愚かで身勝手な行動で再び怒りと恨みを呼び起こしてしまった・・・。
憐れな魂を鎮めたい。怒りや恨みの感情から解放されてほしい。そう願って奏でる。
切なく哀しく美しく、精一杯の気持ちを込めて。
とても長い時間のように思えたが、それは瞬時の出来事だった。風がひゅうっと吹いて渦巻き状になり、ロープの形になって積怨蛇の頭から尻尾まで巻き付き動きを封じた。暴れようとするがビクともしない。
颯さんは躊躇うこと無く横一文字に倶利伽羅剣で斬った。そして
私は涙を流しながら自分が納得するまで、いつまでもレクイエムを奏でていた・・・。
***
これが夫婦の初仕事だった。普通の夫婦だったら最初の共同作業は甘いケーキにナイフを入れるはずなんだけど。なんて事を思いつつも初仕事は何とかやり遂げた。
今では夫婦の心の結びつきは強固なものになった。と、思っている
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