異類妖婚姻奇譚~魑魅魍魎、夫婦で浄化します~

咲良 れい

第1話 出会いの前

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ご挨拶


作品に目を通していただきましてありがとうございます。初めて小説に挑戦します。拙い文章で、気になることも多々あるかと思いますが、生温かい目で見守ってくださると幸いです。

基本、1タイトルごとの読み切りとなります。どうぞよろしくお願いいたします。


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序章


20××年。


霧島明日香は40歳。有名なフルート奏者として活躍している。

リサイタルを開けばいつも満席でチケットは争奪戦。

母の手ほどきで5歳からフルートを始め、今では巨匠の域である。

愛する夫とは結婚して23年になる。

子供は17歳の男女の双子。


父は開山千年の古刹の住職であり、母はフルート奏者、3歳年上の兄も僧侶である。


そんな明日香の愛する夫"颯(はやて)"は人間ではない。

齢七百歳のオオカミのあやかしで人外の美貌の持ち主。その魂に不動明王を宿していた。

彼は世に蔓延る魔物を祓い浄める”ナータ”という使命を与えられている。

明日香は”精霊の笛”を駆使し、颯と共に魔物を祓い浄めていた。

だがこれは家族と二人の親友以外は知らない、決して話せない秘密だった。


颯と明日香の魂は二人でひとつ。これから先も永遠に変わらない。



※このお話には実際に伝わる伝説をごくわずか含んでいます。


第一話  出会いの前


19××年。

明日香の家はK市の自然豊かな山間にある古刹で本尊は不動明王である。周囲は水田が広がり、ちらほらと人家がある程度。少し遠くを見渡すとに小さな街並みが見えた。


寺の敷地には春は紅梅、枝垂桜、水仙が咲き乱れ、参道の脇には樹齢三百年以上の杉や欅が聳え立つ。木々の足元には苔の絨毯が広がり、木漏れ日がスポットライトの様に見える中で妖精がダンスをしていそうな美しい場所や、錦鯉が優雅に泳ぐ、よく手入れがされた池などもある。


本堂の左側奥には裏山から流れ出た霊水が太い竹の筒を通って”とうとう”と流れ出ている。飲めば甘い味がして心身が浄化されるような感覚がするこの水は地元でも評判で、明日香の大のお気に入りである。


明日香は目がクリっとして輪郭はやや丸い可愛い顔立ち。漆黒の長い髪、性格は我慢強くて優しく穏やかな空気を纏っている。が、反面ちょっぴり頑固者でもある。

そんな明日香は5歳から母にフルートの手ほどきを受けていた。


明日香の家族は、 父霧島 白峯きりしま はくほう、母美和、5歳年上の兄青蓮せいれんがいる。

父は住職兼とても優秀な霊能力者。相談に来る人は後を絶たない。


母は世界を股に掛けて活躍するフルート奏者だったが、幼なじみの父と結婚した今は日本を中心にリサイタルを定期的に開きながら、寺で希望者にフルートを教えている。


3歳上の兄は小学校入学時から成績は常にトップクラスでスポーツ万能。顔立ちも芸能界入りしたら間違いなく大人気になること間違いなしのアイドル系イケメン。性格はものすごく真面目で穏やかで優しく、怒った所は見たことがない。でもその分キレたら怖い。ぜっっったいに! 怒らせちゃいけない人。


そんな家族は明日香の自慢だった。



明日香の家は市街地から離れていたため近所には同年代の友達がいなかった。その為5歳から始めたフルートを友達だと思って毎日寺の裏山の池の畔で練習をしていた。池の畔までは歩いて10分程だが、道の両脇は木が生い茂って森になっている。森を抜けて広がった場所に池がある。池からさらに遠くを見ると2000m級の山が雄姿を見せていた。


裏山は自然豊かで、春にはワラビ、ウド、タラの芽などの山菜にキイチゴなどの野生の果物、秋にはキノコ、栗、柿、ヤマブドウなどが豊富に採れる。

木立を吹き抜ける風は甘い空気を含み、草木は年中生き生きと輝いていた。

自然に囲まれての笛の練習は楽しくて嫌だと感じたことは一度も無い。音が冴えわたり気持ちが良い癒しの時間でもあった。

母の手ほどきと自然に囲まれ思う存分練習できる環境は明日香の笛の腕前をめきめき上げていくのに時間はかからなかった。


10年が過ぎ、明日香は中学3年生になった。幼いころにはいなかった友人も学校で沢山出来て充実した毎日である。

毎日笛の練習も欠かさず、15歳にして笛の名手として成長していた。


ある日、いつものように裏山へ行こうとした私は父に呼び止められた。

そして徐に「今日は面白いことが起こるかもしれないよ」と言われたのだ。

「え、どういうこと?!」と聞いてみたが、父はニコニコして「行っておいで」と送り出した。

「??」と首を傾げながらもいつもの場所へと練習に行く。


池の畔で誰に言うともなく「今日も宜しくお願いします」と挨拶してから、ウォーミングアップにお気に入りの

”愛の曲”を奏でた。優しい旋律に癒され、無心で吹いていると、突如耳元で声がした。

『私たちの力が必要な時は笛に願ってください』

「・・・ぎゃ~~?お化けぇ?!」びっくりした私がすっとんきょうな声をあげたのは許されると思う。


すると私の反応に、安心させるような声音で語ってきた。

『私は精霊と呼ばれる存在。今貴女に話しかけている私は全ての精霊が一緒になった状態で話しています。

自然界に存在する全てには精霊が宿っています。

例えば大地、空気、水、風、樹木、草花、雲、動物。私達は貴女の吹く笛にいつも癒され元気をもらっています。私たちが元気であれば人々に癒しの力を分け与えられる。

貴女が私達に元気をくれ、その元気を人々に分け与えられる。とても良い循環です。だから貴女に微力ながら力を貸したいのです』


力を貸す?一瞬頭がおかしくなったのかと思った。しかしさらに声は聞こえる。

『私たちの力が必要な時は願いを込めて吹けば必ず役に立つでしょう』と。

そして私のフルートが突然キラッと眩しい光を放った。眩しさに一瞬目を瞑り、また目を開けると銀色のフルートが横笛に代わっていた。しかしそれも一瞬のことで横笛からまた銀のフルートに戻っていた。あまりの事に幻視かと思った。


『これで貴女の笛は”精霊の笛”になりました。大切にしてくださいね』

「あ、ありがとうございます。力を借りたいと思ったときはお願いします」

そう答えたら、静寂が戻った。


呆然とした私はフルートを穴が開くほど見つめた。何処も何も変わっていない、いつもの笛。

今さっき起こったこととはいえ、信じられなかった。

”精霊の笛?!” いやいやいや。きっと疲れているんだ。幻覚だろう。

今日は早く帰って休もうっと・・・。


家へ帰ると父に「どうだった?」と聞かれ、内心ドキッとしながらも「ううん。何も無かった」と答えると父はニヤッと笑いつつ「そうなんだね」とだけ言った。


だが数年後、これが現実だったと思い知らされ、精霊の笛を使う日が来るなんて思いもよらなかった。

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