第12話:下準備で全ては決まります

 査問会二日目


「ではベリヤーノ局長。ウェルズリー伯爵がその養女を使って、敵国に様々な情報を漏らしていたというのかね」


「はい、裁判長。

 その証拠物件を提示します」


 ベリヤーノ局長が、部下に裁判官さま方の前に、書類といくつかの刀剣を置きました。


「それは海外から、特にトリュフ共和国の国営企業が、遥か内陸のルーシアン帝国の大商会を経由して、資金ではなく物品としてウェルズリー伯爵に贈与していた証拠です」


「嘘だ。そんなものはもらっていない。大体がルーシアン帝国はトリュフ共和国と友好関係にある。

 先の戦争でも中立を守って、悪逆にも双方に資金援助と武器供与をしていたではないか!」


 よくある仮想敵はぶつけあって消耗させて、漁夫の利を得る作戦ですね。

 その際に高官に賄賂を贈るのは常識。

 常に強引なルーシアンにしてはよくやりました。


 ですが陸軍の現場司令官に贈答品を送って何の得があるのでしょう?

 そしてその司令官が敵を撃破してしまうとか、逆効果では?


 あ。

 そう言う事ですか。

 八つ当たり?


 戦場でのお返しは、贈賄疑獄のでっち上げでの失脚狙い。


「裁判長。そこにある刀剣類は、銘がトリュフ共和国に占領されている地域のゾリンゲル工房のもの。これを入手できるのは、すなわちトリュフ共和国と裏で手をむすび、内乱を企てている者だけ。

 おう、そろそろですかな。現在司直があるところを調べております。動かぬ証拠が見つかる可能性があります」


 ベリヤーノ局長がわざとらしく、法廷の出入り口を振り返ります。


 それとともにドアが開き、小走りで官僚が入ってきました。


「裁判長殿、申しあげます!

 ただいま、ウェルズリー伯爵の別邸の倉庫にて、大量の武器が発見されました!

 そのため伯爵邸を緊急に立ち入り調査。

 するとこんな書類が!」


 警察官僚らしき方が封蝋のしてあったらしい、手紙を裁判長に渡しました。


「なんと。

 トリュフ共和国執政からウェルズリー伯爵への親書ですと?

 これは誠でしょうかな。伯爵殿」


「でっち上げだ!

 その様な武器も親書も全くあずかり知らぬ!」


 でっち上げも過ぎますね、ベリヤーノさま。

 さすが名前が歴史に残る秘密警察長官に似ていらっしゃるだけあります。


 さてと。

 反撃開始いたしましょうか。




「裁判長様。

 発言を許可していただけますでしょうか?」


「許可する」


封蝋ふうろうは、どなたが切ったのでございましょう?」


 まずは重要な事実を確認いたしましょう。


「既に切ってありました。確実に受け取った伯爵本人が切ったものかと」


「はい。

 ではその封蝋。印はトリュフ共和国の執政様の印で間違えないと?」


 肯定の発言がありました。


「ということは、トリュフ共和国で封緘ふうかんされたものかと思います。でしたならその蝋は、トリュフ共和国政府が使用している蝋でなければおかしいです。

 しかしわたくしには、その封蝋の色、少し我が国の使用している封蝋と同じような色に見えるのです。

 幸いなことにナーロウ商会の記録では、その入荷先が記録されております。

 そこで面白いことを耳にしたのでございます。

 一カ月前から封蝋用のろうそくの仕入れ先を、わたくしの許嫁であるリース男爵さまの領地に変更されていると。

 つまり、その親書についている蝋がアルバトロス領産でしたなら、書かれた時期は一カ月以内という事。

 では裁判長さま。

 そこに書かれている日付けはどうなのでしょう?」


 これは賭けですね。

 でも分が良い賭けです。

 捏造文書でしたら、そんなに古いものではないはず。


「二十日前だな。ということは、これは捏造だという可能性が極めて高い」


 後ろでリース様がガッツポーズしている気配。

 今後の事を考え、リース様にも脇を甘くしないようにお教えしなくては。何重にもセーフティ機能をつけませんと、足元をすくわれます。


「では、その次に。

 その刀槍類ですが、ゾリンゲル工房といっても一つの工房ではございません。

 三十六のマイスターがそれぞれの技術を競い合っております。

 ですので全てが同じ刀槍ではありません。

 実に多種多様で、刃文とうもん一つとっても、どのマイスターが打ったものかわかります。

 そのような一品の業物を大量に送る必要はございません。そして伯爵さまへ送られたとされる一振りの太刀が、この国に運ばれた経路は刀剣販売ギルドが記載しているはず。

 もし密輸がされていたとすれば、反社会的組織が関与しているのは必定。

 そこをお調べになれば……」


「か、海軍の艦船で運んでくればできるではないか!」


 やりました。

 この言葉、待っていました。


「ベリヤーノ局長。君は私ども海軍の関与を疑うのかね?」


 五人の裁判官のうち一人は海軍出身です。1人は陸軍系。

 これで心証を決定的に悪くさせました。2人は味方を確保です。


「さらに、裁判長様。

 わたくしにはとても言えないことなのでリース様からの発言を許可してくださいませ」


「許可する」


 リース様。頑張ってくださいませ。


「ベリヤーノ局長。君は大分、甘い汁を吸っているようだな。

 生活が困窮している女性への支援として女王陛下から下賜される金貨を横領しているとの嫌疑がある。

 すでに君の部下から表向きの決算書類を提出してもらい、今朝精査した。それによれば下賜された金貨の半分以上が、どこかへ流れて言っている事が分かった。

 そしてその流れを追っていくと、とある娼館へたどり着いた。

 君の御用達の店だ。

 その女亭主は君に囲われているとか。その店は財務官僚がしきりに出入りしていると調べがついている。その女も海外との繋がりがあるようだな」


 リース様の言葉を聞いていたベリヤーノ局長の顔が、どんどん青くなっていきました。


「ああ。そういえばベリヤーノ君の趣味は、小柄で童顔の女性だとか? その女性に足げにされたり悪態をつかれたりするのがお気に入りと……」


「や、やめてくれ~~~~!!」


「そういえば蝋燭ろうそくが君の家にもたくさんあるとか? 鞭やコケシも……」


 なんということでしょう。


 ベリヤーノは少女とおままごと遊びをする趣味があったとは。

 プリムはそこまで、わたくしに話してはくれませんでした。


 でも、ろうそくや鞭はいったい何に使うのでしょう?

 記憶領域にロックがかかっている部分があるので、多分そこに秘密が隠されているのかもしれません。


 この秘密の解明は、このような茶番の裁判ごっこよりも、数千倍困難な予感がいたします。




 ◇ ◇ ◇ ◇


 次回。

 ルシェルに新たなる危機が!

 その危機をどう切り抜ける??


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