さん. 4


 多少、脱線もしていたが…。

 話題の市立高校を巡って、気のままの意見が飛び交う中、珠里じゅりが真剣なおももちで夕姫ゆきを諭した。


夕姫ゆき、頭いいじゃない。どーして、もっと上を狙わないの?」


 想定外の人物の差しで口に、夕姫ゆきはいささか面くらった。


(どうして、って…)


 すぐに対応しようという考えには行き着けずにいるその耳に、周囲でかわされる級友の雑談が入る。


「あそこ、そんなにレベル低くないよね?」


天桜高あまざくら(地元で有名だった市立しりつの難関進学校)吸収してるからね~。

 (上層中層、下層が入りまじって)いまだに選考基準がよくわからない。

 合併してから、そんな(経って)ないし。平均とれば並みってことで…。

 でも、過去のブランド効いてるのか、やたら倍率高いよね…。

 市立いちりつなのに他県よそからの学生、まだ入れるって言ってて、尞も残ってる。

 隆希学園たかしきのやり方とり入れて、苦学生・就労生、優先するみたいだから、落ちても、そんなに周りの目と耳は気にならないと思うよー」


「在学していた生徒のワク、ずるずる残ってるんだろ。

 遠くから来てるやつに、家ない孤児も秀才もアホウもいたわけだから、それ(が)ないと、対応できないからな――

 (多少は他に流れても、普賢春日学園ハルガクなんて、都府県またいでるから、安易にそうそう他校移れ、帰ってくださいとも言えないさ。優秀なできるあたりに自主的に移ったやつが、けっこーいたみたいだけどな)」


「校名は残らなかったのにねー」


「手放す以上、読み違いでも、グループ社名は売ら譲らないでしょう」


 それぞれの情報や気のままの憶測・意見が飛び交う中、和音かずねは、初めの長めの発言以降、我関せずともとれる微妙な顔をして、沈黙を守っていた。


 当事者の夕姫ゆきとしては、いつまでも黙っているつもりなどなく…、

 目の端や正面にその辺にいる友人や発言者を捉えたりしながら、会話の合間を見て、目下、議論をもちかけてきている相手へ、とつとつと応答をくりだした。


「…あたし、まだ、どこの国の…っていうのでもないけど、後学として、本場なまの言葉とか文化に慣れておきたいんだ」


「なら、他にもっといい学校ところあるでしょう?

 あんたなら、アプリとかネットとか、独学でも習得できるいけるんじゃないの?

 高校受験で浪人するなんて、カッコ悪い…」


 珠里じゅりがそこまで言った時、明良あきらが顎を退き、不快そうな上目使いで彼女を見た。


「なんか、その言い方、腹立つぞ。

 中学浪人中浪の何が悪い。

 好き好んで留年するやつばかりじゃねーし、夕姫こいつは、そうかも知れないが、リスク込みで腹決めてんなら、他人が口出すことじゃねーだろ」


「でも…。…カッコ悪いじゃない…」


 そっちの彼に反発を覚えるほどの不満はないので、珠里じゅりは、もごもごと黙りこんだ。


 そんないじけた態度が気に障ったのか、明良あきらが冷めた目をして「はっ」と。

 鼻を鳴らさんまでも、吐き捨てる。


 派手な所作ではないので目立ちはしないが、行儀が悪い。


(だって、そんなことになったら、夕姫ゆきが、彼と同じ学年なっちゃうじゃない…)



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