僕が殺し屋になった日⑤
家族の話はしたくないため何も応えず無視していた。 そんなアレクに痺れを切らしたのか再びベティは尋ねてくる。
「ねぇ、アイルお兄ちゃん聞いてる?」
「・・・どうして急にその話なんだ」
「何となく! さっきバスに乗ったでしょ? その時に家族連れを見るお兄ちゃんの目が少し怖かったから」
「・・・」
ベティにとっては他愛のない会話のつもりだったのだろうが、その話題をアレクは好まない。 にもかかわらず、ベティは聞いてもいないのに自分の家族の話をしてくる。
「私のお父さんはねー! 朝早くから出かけちゃったんだー。 大事な用で誰かと会うって言っていたんだけど」
―――朝から家を出ていたのか。
―――居場所は分からないみたいだけどボスは無事会うことができたのかな。
「今日はカレーの日だから、いつもお父さんがカレーの材料をたっくさん買ってきて作ってくれるの! 一日寝かした方が美味しいって言うんだけど、私はできたらすぐ食べちゃうの」
「俺には家族がいない」
「・・・え?」
「・・・」
正直に伝えるとベティはアレクを見つめてくる。 アレクはそれ以上何も言わなかった。 こう素直に言えば流石にこの話題は終わると思ったのだ。
「そうだったんだ・・・」
ベティは気まずそうに視線をそらす。 これで落ち着いたのかと思いきや再びベティは口を開いた。
「私もね、お母さんはいないの」
「・・・」
「私が生まれた時に死んじゃったんだって。 元々身体が弱かったらしいの」
それを聞いても同情などしない。 返す言葉もなくスルーしているとベティは服の中に隠していたペンダントを取り出した。
「アイルお兄ちゃん、これを見て! この人が私のお父さん」
「ッ・・・!」
そう言ってペンダントを開き見せてきた。 どうでもよく見たくなかったが、無理矢理顔の前へ向けてくるため目に入ってしまう。 それが目に入った瞬間身の毛がよだった。
そこにはベティとかつてのアレクの父親が写っていたのだから。 昔の写真などではなく面影をハッキリと残し明らかに老けた顔だった。
―――コイツは紛れもない・・・ッ!
それでも幼少期に毎日見ていた顔ですぐに偽物のアレクの父、ケイシーだと分かった。
「アイルお兄ちゃん! どうしたの!?」
先へ進むのを止めベティを置いてアレクは道の脇へと寄った。 ブラッドからもらった特別な通信機器でブラッドに繋ぐ。
―――どうしてアイツが?
―――ボスが始末してくれたんじゃなかったのか!?
―――あのペンダントに写ったアイツが本物なら今頃ボスはソイツと会っているはず・・・ッ!!
しばらくするとブラッドが電話に出た。
『アレクか? どうした?』
「ボス!! 今どこにいるんですか? ターゲットの男には会いましたか!?」
怒気が混ざった声で言うが周りに気付かれないよう声量は抑えている。
『どうしたんだ、急に?』
「俺の偽の父親ケイシーは始末したんじゃなかったんですか!?」
『・・・』
単刀直入に尋ねるとブラッドは黙り込んだ。
「ボス、答えてください!!」
『・・・』
「もし本当に始末してくれたなら! アイツはまだ生きています!! ボスがこれから依頼をこなそうとしているターゲットがソイツなんです!! だからボスも気を付けて」
『アレクは今どこにいる?』
「え? 今は・・・」
ブラッドはアレクの言葉に何も返すことなく新たな質問をしてきた。
『もっと遠くだ。 もっと遠くへ行くんだ。 いいな?』
「え、いや、ちょっと待ってくださいボス!!」
強制的に通信は切られた。 その後、何度かけ直しても繋がることはなかった。
―――どういうことだ?
―――どうして何も答えなかった?
―――驚いている様子もなかった。
―――アイツが生きていることボスは知っていたのか?
―――いや、流石に知っているよな。
―――・・・依頼をこなすためにターゲットの情報はきちんと調べているはずだ。
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