来る日々に思いを馳せて【KAC20231・本屋】

カイ.智水

来る日々に思いを馳せて

 いつからだろうか。街から新刊書店が消えたのは。

 最初は刺身のツマだった電子書籍が、気づいたら紙の書籍を駆逐していた。

 紙の書籍の生き残るすべとは?

 火に焚べて着火剤代わりに。高く積んで枕に。

 物理的な使い方しか思い浮かばないということは、情報を伝える手段としての紙の書籍は役割を終えたのかもしれない。

 人類を宇宙進出まで飛躍的に成長させたのは、間違いなく活版印刷の技術が生まれたからだ。

 大量にそして安価に質の高い紙の書籍が印刷されたからこそ、古人の知恵を受け継いで発展させてこられた。


「このままでは、僕が作家になる頃には紙の書籍は絶滅しているかもしれないな」

 そんなことさえ思い浮かんでしまう。


 街を見れば新刊書店だけでなく、古書店の数も激減している。昔の漫画だって電子書籍で販売される時代となったのだ。

 だが紙の書籍には人を惹きつけるなにかが確かにあった。

 電子書籍で販売されないような書籍が、今も細々と新刊書店や古書店で販売されていた。

 小説は電子書籍とすこぶる相性がよい。たいていの場合一度読んだら二度と読まれない。アマチュアも含めれば物語は年に数十万は生まれているだろうから、二度三度と読み返す必要もないのだ。

 もはや小説が書店の看板作品だった時代はとうに過ぎ去ったのかもしれない。新刊書店も今は絵本や漫画で賑わっている。だからこれからも小説はどんどん新刊書店に陳列されることすらなくなるだろう。


 そしてそのうちやってくる新時代は、おそらくタブレット端末で完結するはずだ。

 書店のWi−Fiへ接続するのにお金を払い、作品の購入ダウンロードは店頭で行なう。冒頭試し読みすら電子書籍で完結するだろう。

 そうなったら、新刊書店で紙の書籍を売るなんてまず見られなくなるかもしれない。おそらく電子書籍を読んで、気に入った作品を「モノ」としてコレクションするための手段となるに違いない。

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