3月29日 隠れた虫を探せ!


 誰かと一緒に道を歩いていても、私の目は大抵道端に向いている。普段からありがたいことに仲良くさせていただいている人たちは、私の趣味嗜好を分かってくれているので、時々私が「あっ!」と言ってしゃがみこんでも、「何か見つけた?」と優しい対応である。(本当にありがたい)

 時々言われることがある。「よくそんなに見付けられるよね」


 私に言わせれば、ガチの虫界隈の人々は、こんなものではない。超能力でも持っているのではないかと疑いたくなるほど、次々に虫を見付ける。(それだけでなくあの界隈は、なぜか珍しい虫と出会いまくる強運を「持っている」人が多いような気がする)

 しかし未熟な私でも、虫を見付けるのが多少は上手い自負は持っている。コツがあるのである。


 虫を探すには、まず目当ての虫の生態を知ることが大切だ。いつどういった場所に現れやすいのかを知っているだけで、出会う確率は段違いに高くなる。恐らく最も重要な要素は「食草を知ること」だ。

 ここまで読んでくださった方は、私が散々言ってきたワードを思い出すかもしれない。「スミレはツマグロヒョウモンの食草」とか「コマツヨイグサはセスジスズメの食草」とかである。虫は、食べ物があるところにたくさんいる。自明のことである。

 ツマグロヒョウモンを見付けたければスミレやパンジーの植え込みを探せばいいし、セスジスズメを捕まえたければコマツヨイグサやヤブガラシの葉の裏を探せばいい。


 とはいえこれは、まず知識ありきの探し方だ。目当ての虫が決まっていれば、このやり方のほうが圧倒的に効率が良い。しかし「特に目当ての虫はいないんだけど、とにかく虫を見付けたい!」という人もいるだろう。(いると信じている)

 そんな時は「食痕」を探せばいい。食痕とは、書いて字のごとく「食べた痕」だ。虫が植物を食べると、大抵の場合は痕跡が残る。何かに齧られた葉があったら、その裏をちょっと覗いてみるといい。犯人(虫)がいたりする。


 もちろん、そう簡単にはいかない。食べた痕跡だけ残して、食べた主はとっくに去った後だった、なんてことの方が多い。何を隠そう私も今現在、ふたつの食痕の犯人(虫)を追っている最中だ。


 ひとつは、黄色いツメクサの葉を齧っている犯人(虫)。「3月19日 決着と勃発」で紹介した、なんとかツメクサの葉が、どうにも穴ぼこにされているのだ。

 重なるように生えているカラスノエンドウの葉は全く無傷であることから、なんとかツメクサの葉だけを食べていると思われる。葉の端や中央が丸く齧り取られていて、ハムシの食べ方に似ているなとは思っているが(ハムシは、まず葉に丸い傷をつけてから、その内側をくりぬくように食べる)、まだ犯人には辿り着いていない。


 もうひとつは、タンポポの葉に白く走ったマインの犯人(虫)。マインとは、葉の内側(裏側ではなく葉の中)に潜った虫が、葉の内部を食べ進むことによって形成される白い線だ。このような食痕を残す虫を、俗に「絵描き虫」と呼んだりもする。

 このような潜葉性昆虫については、正直に言ってほとんど知識がない。害虫としてハモグリバエやハモグリガなどがいるらしい、という程度だ。これらがタンポポを食べるのかどうかも分からない。これにかんしては、葉を切ってみるなりなんなりして、現物を確かめるのが一番早そうだ。



 こうして食痕から虫を探すのは、なんだか推理ゲームのようで楽しい。あるいは、かくれんぼだろうか。隠れている虫たちをまんまと見付けたとき、私はさながら刑事ドラマの主役よろしく「見付けたぞ! 犯人(虫)め!」と勝ち誇った気持ちになる。


 皆さんもぜひ、雑草や植え込みの葉に注目してほしい。何かに食べられたような痕があるかもしれない。そうしたら、そっと視線を左右に走らせて、その犯人(虫)を探してみよう。

 そう簡単には見付からないよな、と油断していたら、まさに目の前にいたりして「ひえっ……」となることもある。彼らは、隠れるのが上手い。環境に溶け込み、存在を浮かせない見事な手腕。見習いたいくらいだ。

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