3月16日 ハムシを愛でよう。


 雑草にも興味を持つようにしてからというものの、春の情報量の多さに驚くばかりだ。今まで虫の姿ばかり探していたことを大いに反省し、私は今日も下を向いて歩く。

 しかしやはり、興味の度合いというものは、どうにも変えようがない。雑草と虫の両方が視界に入ると、どうしても虫の方に意識が向いてしまう。今日は、コガタルリハムシが交尾しているところに出くわした。


 私は一般的に芋虫と呼ばれるたぐいのものたちを好んで見るが、ハムシの仲間もなかなかに好きだ。ハムシとは「葉虫」であり、その名の通り植物の葉を食べる。おおむね害虫である。

 私が最も好むハムシはクロウリハムシで、つぶらな瞳に黒とオレンジの二色がオシャレなハムシだ。あまりにも好きなので、自分の小説にも登場させている。

 今日、ギシギシの葉の上で交尾していたのは、コガタルリハムシだ。(たぶん)

 つまり彼らは食事処でセックスをしていたというわけだが、生物としての根源的な欲求を満たしに満たしていて、大いに結構だと思う。



 今日見た虫、コガタルリハムシは、金属光沢のある深い瑠璃色をした、とても美しいハムシだ。明るい春の陽光のもと、瑠璃色につやめくコガタルリハムシは、さながら生きている宝石のようである。


 コガタルリハムシは、ギシギシの葉を食い荒らす。ギシギシというのは、道端によく生えている、やたらと存在感のある雑草だ。

 春になると、ギシギシは見る間にむくむくと成長し、そして見る間にアブラムシにたかられ、見る間にコガタルリハムシに食い荒らされる。散々な目に遭いながらも、ギシギシは逞しく道端にツンと立っている。ギシギシ、推せる。


 ……ギシギシ推せるポイントはともかく、ギシギシの葉を探したら、高確率でコガタルリハムシに出会うことができる。(もっと高確率で、アブラムシの大群を見る羽目になるが)

 茎に沿って元気に歩いていたり、葉の上でじっとしていたり、とても可愛い。



 ハムシという生きものたちは、皆そうなのかは知らないが、少なくとも私の観測範囲内においては、非常に警戒心の薄い虫たちだ。

 虫によっては、近くにしゃがんだりカメラを構えたりすると、すぐに逃げてしまうものもいる。私は虫の写真を撮るのが好きなので、警戒心の強い虫を撮るときは、まず遠くから撮り、逃げられないようにゆっくりゆっくり、徐々に近づきながら撮っていく。


 ところがハムシ、逃げない。全く逃げない。お尻をつついたらさすがに逃げるようなそぶりは見せるが、それでも飛んで逃げるようなことはせず、せいぜい早足で走り出す程度だ。

 目の前に指を差し出すと、「これはなんだ?」とばかりに触角でちょんちょんつつく。そして、あろうことか指に上ってくる。私としては嬉しい限りなのだけれど、それでいいのか、ハムシ。まあ、ハムシが良いなら良いのだろう。



 というわけで、私は皆さんにお勧めしたい。ハムシを見かけたら、指を上らせてみよう。爪を上にして、ハムシの目の前に指を差し出すだけでいい。たぶん、上ってくる。可愛い。そして、手の上をちょこちょこ歩きまわる。とても可愛い。


 カナブンやコガネムシ、ハナムグリたちとは違って、ハムシの脚は丸っこく、とげとげしていない。ハナムグリを手に乗せると、脚のトゲが刺さってそれなりにちくちくするのだが、ハムシはそんな心配なく手に乗せることができる。小さなお子様にもおすすめの虫である。


 ハムシを手に乗せたまま観察していると、たいていのハムシは、恐らく脚の手入れを始めるだろう。人間の皮膚というものは、虫たちにとっては脂が多すぎる。脚についた脂をいやがって、ハムシたちは脚をなめなめ、綺麗にする。ついでに、触角のお手入れを始めたりなんかする。人の手の上で。なんという可愛さ。


 古今東西、人間は猫という生きものに魅了されているが、身を清めるハムシは猫にも通ずるかわいさを持っていると思う。実際、猫が顔を洗う仕草によく似ている。頭をちょっと傾けて、脚の先を舐め、脚で触角をなでつけ、また脚を舐める。こうして書いてみると、ほぼ猫だ。もしかしたら、ハムシは猫なのかもしれない。



 余談だが、今日見付けたハムシ(交尾中)を撮影しようとしたところ、近づく段階でギシギシの葉を蹴っ飛ばしてしまい、葉の裏に張り付いて交尾をしていたコガタルリハムシのカップルのうち、オスの方がぽろっと地面に落ちてしまった。

 大変申し訳ないことをしてしまったと、猛省するばかりである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る