第53話 意外な乱入者

「巻物を城から盗みだし、我が国を危機足らしめた罪は重い。しかしそなたらは憂ノ国へ巻物が渡るのを命がけで阻止したと報告がある。この、矛盾した行動の真意はいかに?」


「それは……」

 お涼は幾通りもの答えの中から、一番五平と無縁のものを選んだ。


「里の内部にいさかいが御座いますれば。阿ノ国への不義に対しては、この命をもって償う所存にございます」


 藤二らが密かに目配せし合い、口を開こうとしたその時、玉砂利を乱暴に踏み荒らす音が聞こえてきた。


「お、お、お待ち下さい!」

 その声を聞いたお涼の目に光が戻る。

 お涼は身を乗り出して、大きく開いた目を声のする方へと走らせた。


「ごっ五平様っ!」

 槍を十字に構えた護衛の兵士に行く手を阻まれなから、五平はお涼に向けて手を伸ばす。


「お涼さん! お涼さんっ!」


「ええい、どこから入り込んだ! 静まれぃ! 殿の御前であるぞ!!」

 老中の一喝に、五平は玉砂利の上に平伏し、懸命に訴えた。


「お、お涼さんを許してやって下さい! 

 代わりにわしが! わしがどんな処罰も受けます! どうか……後生でこぜぇます!!」


 それを聞いたお涼が青ざめる。

「お止めください! 五平様には何の関わりもないこと。調べていただけば事は明白。全てはわたくしの独断にございます!」


「こんなところまでどうやって潜り込んだのやら。つまみ出せ!」

 老中が護衛に命ずる声を、穏やかに諭すもう一つの声。


「この者は私の同行者です。手荒な真似はおよしなさい」


「あっ、あなた様は……」

 真田三勇士がこぞって腰を浮かせた。


「良庵様!」

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