第21話 従姉妹と、皿洗い


  *


 俺たちは生徒会室の扉をノックして中に入る。


「失礼します」


「し、失礼しまーす」


「失礼いたしますわ」


 俺たちは挨拶をして生徒会室に入った。


「待っていたよ」


 生徒会室では、生徒会長である琴葉さんがひとりでソファに座っていた。


「今日は転校生の的井葵結さんの件でご報告があります」


 俺は真剣な口調で言った。


「それと先ほど、不良生徒ふたりが俺に絡んできたので、返り討ちにしました。携帯の録音機能を使って脅したら、あっさりと退散してくれました。なので、問題はありません」


 俺は淡々と告げる。


「そうですか……それは、よかったです」


 琴葉さんは満足げにうなずく。


「それで蒼生くんは葵結さんをどうするのですか?」


「葵結を生徒会に入れることはできませんか?」


「えっ?」


「ちょ、ちょっと、蒼生……」


 陽葵は戸惑った様子を見せる。


「葵結を生徒会に入れたら、葵結を守ることができると思うのです。ダメでしょうか……?」


「私は構いませんけど……」


 琴葉さんが了承した。


「葵結は、どう?」


「も、もちろん、入りたいです! というか、入れてくださいっ!」


 葵結は必死な形相で言う。


「じゃあ、決まりですね」


 葵結は生徒会の一員になった。


「よろしくお願いします」


 葵結は元気よく頭を下げた。


 次期生徒会のメンバーが揃いつつあるのだが。


「蒼生、俺のことを忘れるんじゃねえよ」


 悠人が不満そうな顔で生徒会室に入る。知世も一緒だ。


「えっ、なんで悠人が?」


「俺たちも生徒会に入ることにしたから」


『ええっ!?』


 俺と陽葵は驚いた。


「生徒会に入れば、蒼生と一緒にいられるからって、悠人が……私も陽葵と一緒にいられるし、生徒会に入ります……」


「マジで?」


「ああ、そうだ。俺は蒼生の親友だからな。蒼生が困っていたら助けてやるよ」


「ありがとう、悠人……」


 俺は素直に感謝する。


「いえ、気にしないでください。私が蒼生と陽葵を助けてあげないといけませんから……」


「どうして?」


「だって、私も陽葵の親友ですから」


 知世が胸を張って言う。


「そうだな」


 俺はクスッと笑う。


「じゃあ、これから生徒会活動を始めましょう」


『はいっ!』


 こうして、生徒会の活動が始まろうとしていた。


  *


「はあ〜……やっと終わったね」


「そうだな」


 学校での帰り道、俺と陽葵と葵結は一緒に帰っている最中だった。


「葵結、生徒会には馴染めそうか?」


「はいっ!」


 葵結は満面の笑みを浮かべる。


「そうか」


 俺もつられて笑みを浮かべる。


「葵結、今日は疲れているだろうし、まっすぐ帰るんだぞ」


「ええっ、わかっていますわ」


「じゃあ、俺たちは、こっちだから……お疲れ」


「…………」


 葵結は無言になる。


「葵結? どうかしたのか……?」


「あの、実は、わたしも、そちらの帰り道になります」


「えっ、ああ、そうなんだ」


 俺は苦笑した。


「葵結、俺たちに遠慮しなくていいからな……」


「いえ、本当にこちらの道を歩いていくんです」


「そっか……」


 俺は呆然とする。


「それなら、一緒に帰っていこうぜ」


「はいっ!」


 葵結は嬉しそうに返事をした。


 俺と陽葵は一糸家をめざしているのだが、いつまで経っても葵結と別れることはなかった。


 ――もしかして……。


「葵結……まさか……」


「はい……その、まさか、です」


 葵結が申し訳なさそうにうなずく。


「まさか、葵結も一糸家へ……?」


「はい、その通りです」


 一糸家へ到着した。


「ただいま〜……」


 陽葵が玄関で疲れたような声を出す。


「おかえり〜。葵結ちゃんも、いらっしゃい」


 出迎えてくれたのは一華さんだ。


「どうも、こんばんは……ですわ」


 葵結は恐縮そうに頭を下げる。


「あら、葵結ちゃん、大きくなったね〜」


「はい、まあ、そうですわね」


 葵結は照れくさそうにしている。


「葵結ちゃん、部屋に荷物が置いてあるし、案内するよ〜。ついて来て」


「はい、ありがとうございます」


 葵結はぺこりと頭を下げた。


「……これから大変だな、一華さんは……」


 もしかしたら、あのとき、一華さんが悩んでいたのって……葵結が一糸家に入るからだったのかもしれない。


「そうだね。お姉ちゃんは、この一糸家をカフェの経営で支えているからね」


 陽葵がため息をつく。


「……俺、もっと一華さんの役に立てるようにがんばらないと……」


 俺は決意を新たにする。


「蒼生は充分にやってくれてるよ。わたしも蒼生のおかげで無事に学校で生活できているわけだし……」


「陽葵……」


 俺は陽葵を見つめる。


「ふたりとも、早く来ないと夕飯が冷めちゃうよ〜」


 一華さんがリビングから顔を覗かせる。


「はい、今行きます」


 俺と陽葵と葵結は夕食を食べるためにリビングへ向かうのであった。


 リビングには咲茉がいた。


「あっ、葵結お姉ちゃん、久しぶり」


「はい、お久しぶりですね」


 葵結と咲茉は挨拶を交わす。


『…………』


 お互いに、なにか思うところがあるのか、無言のまま見つめ合う。


「ただいま〜! 遅くなってごめんなさい」


 琴葉さんが帰宅したようだ。


「えっ!?」


 琴葉さんの視線の先には、葵結の姿が見えたようだ。


「葵結さん、どうしてここにいるの?」


「実は……私も一糸さんの家で暮らすことになりました」


「ええっ!? そうなんだ! 確かに蒼生くんも住んでるしね! でも、葵結さんと暮らすなんてね……」


 琴葉さんは驚きを隠せない様子だった。


「みんな揃ったし、ごはん食べようか〜!」


 一華さんが笑顔で言う。


 俺と陽葵と葵結と一華さんと咲茉と琴葉さんでテーブルを囲むことになった。


「いただきます」


 全員で手を合わせる。


 今日のメニューは、すき焼きだ。


「葵結、遠慮せずにたくさん食べるんだよ〜」


「はい、わかりましたわ」


 葵結は嬉しそうに返事をする。


「しっかし、にぎやかになったね〜。これで蒼生くんと陽葵と葵結ちゃんとわたしと咲茉と琴葉の六人で暮らしていることになるね〜」


「そうですね」


「そうだね!」


 俺と陽葵は同意する。


「ところで、葵結ちゃんは料理できるの?」


「はい、一応できますわ」


「へえ、すごいな」


「そうですか? ありがとうございます」


 葵結は照れたように笑う。


 そんなこんなで食事が進む。


「そうだ、葵結ちゃん。学校には馴染めそう?」


 一華さんが尋ねる。


「はい、なんとか馴染めそうです」


 葵結は自信満々な表情だ。


「よかった〜」


 一華さんはホッとした様子だ。


「葵結ちゃん……これからよろしくね」


「はいっ!」


 葵結は元気よく返事をした。


 だが、陽葵と咲茉は複雑そうな表情をしていたのだった。


  *


 夕食を食べ終え、俺は食器の片付けをしている。


「葵結、手伝ってくれてありがとう」


「いえいえ、これくらいは当然ですから……」


 俺たちは並んでキッチンで皿洗いをする。


「…………」


 葵結は無言になる。


「どうかしたのか……?」


「あの……質問してもいいでしょうか……?」


「ああ、もちろん」


「その……蒼生は陽葵のことが好きなんですか……?」


「なっ……なに言って……」


 突然、葵結が変なことを聞いてきた。


「いえ……だって、学校で……いつも陽葵と一緒にいますよね……?」


「それは、な……不良生徒から陽葵を守らないといけないから……だよ」


「それだけではない気がしますけど……」


「そ、それだけだ……」


「そうですか……ならいいんですが……」


「ならいいって、なにがだよ」


「別になんでもありませんわ」


 葵結はツンと顔を背ける。


「まあ、いいや……それより、俺からも質問させてもらっていいかな……?」


「どうぞ」


「葵結はどうして、この家へ来たんだ……?」


「わたしは、蒼生が、この家に生活していることを聞いたので、それで、いても立ってもいられなくなって、この家に来ました」


「そっか……」


「それにしても、本当に、この家で生活しているだなんて……驚きです」


「まあ、成り行きで……な」


「蒼生は、この家で、どうしたいのですか?」


「俺は俺のできることをしたい。みんなの助けになりたい。それだけだ」


「そうですか……」


「そういう葵結は……?」


「わたしは……蒼生と一緒にいたいという不純な理由からですわ」


「えっ、それって、どういう意味で!?」


「さあ、どういう意味なんでしょうね……」


 葵結はクスッと笑った。


 こうして、俺と葵結は会話をしながら皿洗いをしていくのであった。

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