七日

米太郎

曇天

 延々と続く夏の地獄。

 ‌天に浮かぶ灼熱の炎の下、遠くの景色がかすんで見える。


 俺は、自分の意志で立っているのだろうか。

 自分の望まぬポジションに立たされて、ただ待っているだけ。


 地獄だと思うなら逃げ出せば良いのに。何に囚われているんだろう。

 余計な感情が仲間を敵に見せてくる。


 快音が耳に届く。


 遠くに霞んで見えた希望の光が、高く高く飛び上がる。

 ‌これを掴めば俺も救われる。


 光は段々と俺のもとへと近づいてくる。


 希望の光は、空で灼熱の炎と交じり合い、姿をくらませる。仲間の声も炎もみんな邪魔をして。


 曇った心では、何も見えない。

 目測を誤り、落ちてくる光は俺の手には当たったが掴むことはできなかった。


「しっかりしろ! ‌交代だ! ‌もう次のチャンスは無いぞ!」


 監督に交代を言い渡され、ベンチに戻る。


 太陽の下で流す汗は遠くて見るから美しく見える。

 流す汗も無い陰湿な心のせいで、目も曇ってしまってる。

 俺の心はいつからこんなに荒んでしまったんだ。


 俺の代わりに出た仲間も、希望の光を掴めなかった。

 俺は心の中で少し喜んでしまった

 仲間のはずなのに、俺と同じチームなのに。


 外野にいても、ベンチにいても。

 どちらにしても、ただ声を出すことだけが俺の仕事だった。


 俺のミスも仲間が取り返してくれて、初戦は勝つことができた。

 厳しい戦いが終わったとしても、自由にならない。

 疲れた体で帰ってくるのは、すぐ近くにあるホテル。

 輝く夏にやって来れたのに。

 ‌表舞台を飛べなければ、ずっと虫カゴにいるのと一緒。


 俺が試合に出れたのは初戦だけ。

 一度だけ、記念出場させてくれただけだった。


 それ以外はずっとベンチで声を出すだけ。

 それしか俺にはできなかった

 この声には、何か意味があるんだろうか。


 試合に出れないような奴だって、試合以外では外を出歩くことは許されない。

 せっかく関西まで来れたのに。

 学校の寮生活でも自由が無い暮らしたったが、最後の夏なのに用意された虫カゴからは出られないのだ。


 真夏の空の下で、俺は声を上げるだけだった。


 チームは試合を勝ち進んでいく。

 もちろん嬉しい気持ちもある。

 このために今まで頑張ってきた。


 けれど、この嬉しい気持ちは何に対してだろう。

 勝つことが嬉しいのか、それとも終わりが近づいているから嬉しいのか。



 いつまでも終わらない。延々と続く夏。


 嬉しいのか嬉しくないのか、わからなくなってくる。

 チームの快進撃は続き、決勝まで勝ち進んでいた。

 俺が出ていない、俺のチーム。

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