【KAC20234】深夜の散歩中にフェレットを追いかけて血だらけになった

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

第1話

 夜の街を歩くのが好きだった。

 人の賑わう繁華街ではない。

 ちょっとだけ栄えているベッドタウンだ。コンビニもある。空いている店もある。眠っているようで寝ていない。でも物静かで歩いている人が少ない。

 道路沿いは明るくて通る車はまばら。

 一級河川登録されている割と大きな河を横断するように鉄道と高速道路が通っている。

 共に巨大な建造物で灯りを絶やすことがない。

 その高架下を歩いたり、少し離れて眺めていると感嘆する。こんな巨大な物を国中に造るのだから。

 河を渡るための巨大な鉄橋からの眺めは特に雄大だった。遠くの山の麓に輝く人間の営み。巨大なコンクリートの大蛇のような高速道路。

 人間の力は凄いのだ。

 眼の前に広がる景色がそう実感させてくれる。


 そんな夜に歩いていると、普段目につく些細なひび割れや街の汚れなんて気にならない。

 世界はこんなにも美しいのだから。


 そう。

 些細なことを気にしてはいけない。

 スマートフォンが完全に割れて壊れたことなんて。


 ……些細かな?


 骨には異常はないと思うけどジーンズが破れて、足に触れるとぬめっと血の感触があることなんて。


 ……歩けそうだから大丈夫。


 ここがどこかわからないなんて。


 河を渡ると隣町だから仕方がないよね。夜の住宅街なんか迷路だし。大丈夫。自宅の方向性はわかるから生還できる。大きな道路に辿り付けば行けるはず。


 なんでこんなことになったんだろう?


 河沿いの道を歩いている途中に野生のフェレットを見かけたからだ。

 なんとなく追いかけた。

 知らない街の夜の住宅街は鬼門だ。道に迷う。住宅街の入り組み方は異常なのだ。知らぬ間に袋小路にたどり着く。正解の道かそれはないだろという細い路地なことも珍しくない。

 深夜徘徊のプロである私もいつも通りならば近づかなかった。


 けれど物語の始まりを感じたんだ!

 仕方ないじゃないか!

 颯爽と私の前を白いフェレットが横切ったんだよ!


 その結果、住宅街の溝に落ちた。

 溝というか小川。

 一級河川沿いの住宅街だから、河に合流する小川が多いのだ。

 そして管理も杜撰だった。不安定な場所な鉄板を置いただけとか。

 見事に踏み抜いて、落とし穴に落ちたわけだ。

 ビビった。

 死んだかと思った。

 一メートルぐらいの高さだったけど、一歩間違えたら死んでた。

 スペランカーはリアルだよ?

 不意に落ちると落差一メートルでも人は死ねるよ?

 私は痛感したからわかるよ。

 バクバクと高鳴っていた心臓が落ち着いてくる。

 人間リアルな死に直面すると本当に冷静になることもわかった。

 よい経験をした。

 本日も実りある深夜徘徊だった。


「……帰ろ……足痛い……スマホどうしよ」


 このあと必死に一メートルの崖を登った。

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