花吹雪

西しまこ

第1話

 車を走らせたら、ワイパーから白い花びらが一斉に飛んで、まるで花吹雪みたいだった。

 いったい、どのくらい積もっていたのだろう? それはもうすごい花吹雪だった。

 あたしのはやる気持ちを表すように、花吹雪は後ろに流れて行った。

 いくつもの花びらが飛び散り、宙を舞って後ろに流れてゆく。


 あたしはアクセルを踏んだ。

 オトコにLINE一つで呼び出され、すぐに待ち合わせ場所に向かう女。都合のいい女。

 いいの、分かっている。好きだから、いいの。

 花吹雪は終わった。もうワイパーに積もった花びらはなくなったのだ。

 ちょっと残念。きれいだったから。



「きれいだね」って、カズキは言って、あたしの肩を抱いた。

 それはカズキにとって、なんでもない言葉で本心ではなかったかもしれない。それでもいい。そう言って、あたしの肩を抱き、あたしにキスをしたカズキに恋をしたのだから。

 あたしの恋心はどんどん積もっていって、まるでワイパーに積もった花びらみたいに積もって、でもどこへも飛んでいかないの。ずっと積もったまま。

 呼び出されたら、すぐに行く。いつでもカズキの連絡を待っている。

 彼の気まぐれにつきあって、彼の気が向いたときだけ会う、それだけ。


 でも、あたしはその一瞬にかけている。

 会いたい気持ちを募らせて、毎日を暮らす。スマホの通知だけを気にして。

 友だちに話したら「そんな男やめなよ」と言われた。「都合よく使われているだけじゃん」とも言われた。

 でも、恋は意識してやめられるものじゃない。

 だって、もうカズキのことで頭がいっぱいで、カズキのことしか考えられないの。



 今日もあたしは、カズキが待つ駅に向かう。駅でカズキを拾って、カズキの部屋に行く。「そんなの、足に使われているだけじゃない」。いいの、そんなの言われなくても分かっている。いいの、会えれば。それだけで。


 駅のロータリーに着いた。カズキがいる。

「うち、行けばいい?」「うん」

 ほとんど会話はない。あたしはハンドルを握って、カズキのマンションへ向かう。近くのパーキングに車を停め、カズキの部屋へ行く。

 そしてカズキは当たり前のように軀を求めてくる。

 嬉しい。

 あたしはあたしの持っているものを全部あげたい。軀を求められれば、嬉しい。「カラダだけの関係なんて」。軀で繫がることの、何が悪いの。


 だって、とても分かりやすく、気持ちいい。

 何、このとろとろとしたいい気持ち。融けていく。境界がなくなる。

 あなたに一番近づく、この一瞬に、すべてをかけている。



   了



一話完結です。

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☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

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花吹雪 西しまこ @nishi-shima

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